(3)入社前にもっときちんと確認しておくべきだった

Yさん(42歳)は、15年前に大学院を卒業した後、インターネット広告代理店に就職、インフラ担当として活躍してきましたが、あるヘッドハンターからの誘いで、3年前に大手量販店のデジタル化推進を担う情報システム部長として転職しました。

店舗が主役の小売業ということもあり、開店前の朝礼、ラジオ体操など、日々のルーティンがまったく異なることはもちろん、形骸化している部分はあるものの本部社員も基本は休日も交代制で、年に数回とはいえ、思うように休みが取れないという状況もありました。

また、お客様第一主義の影響か、各店舗から本部へのクレームや要望には迅速に対応しなければならず、事業全体にとってほとんど影響がないことでもいちいち対応するために重要業務が滞ることがしょっちゅう起こるような状況でした。

「日常の仕事環境や慣習を甘く考えていました。入社する前に、見学をさせてもらったり、同じ職場で働く人に話を聞く機会を作ってもらったりするなり、もう少し丁寧に確認しておけばよかった」とYさんは振り返ります。

仕事環境や慣習、価値観は、たとえ同じ業界でも会社ごとに大きく違うことがよくあります。ましてや、業界が変わるとさらにギャップが広がるのも当然です。できるだけ細かく事前確認をして、転職後に起こるギャップの存在をつかんでおくことをお勧めします。

Yさんは今、転職活動を再開しています。

(4)安月給地獄から脱出したら、パワハラ地獄が待っていた

Aさん(36歳)は、もともと自分の趣味だった旅行に関わる仕事をしたいと考えて、地元・名古屋の旅行会社に就職。営業担当として、修学旅行や企業の研修旅行などの販促や添乗などを中心に10年間、経験を積み上げてきました。しかし、ただでさえ低かった収入が、新型コロナウイルス感染症の拡大で経営がひっ迫し、賞与もなくなったことで「これでは子供を養っていけない」と考え、2年前に転職、カーディーラーで営業をスタートしました。

転職活動でも、仕事内容より年収を優先して探したことで、前職に比べて年収は2割増え、無事、当初の目的は達成できたはず、でした。

しかし、そこで待っていたのは、上司の営業マネジャーからのパワハラでした。最初は普通にコミュニケーションが取れていたものの、入社3カ月後くらいから徐々に目を付けられ始め、「わからないことはすぐに聞けと言っただろう?」と言われたかと思うと「なんでもかんでも人に聞く前に自分で考えろ」と言われるような日々が常態化して、1年ももたずにメンタルをやられて休職することになってしまいました。結局、そのまま退職し、今も転職活動をしています。

前職を辞めるきっかけになったネガティブ要因を払しょくすることだけを目的にしてしまったことで、他の大切な要素を見逃してしまった典型的なケースです。転職先を選ぶ際には、退職理由を単に裏返すだけでなく、自分がご機嫌に働いていくために必要な要素をしっかり洗い出して比較検討することで、ミスマッチを予防することが可能になります。

(後編に続く)

※「次世代リーダーの転職学」は金曜掲載です。この連載は3人が交代で執筆します。

黒田真行
ルーセントドアーズ代表取締役。日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release40」を運営。2019年、中高年のキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』、ほか。「Career Release40」http://lucentdoors.co.jp/cr40/

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