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「VUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)」と呼ばれる不確実な時代。少しでも確かに、自社のビジネスや自らのキャリアの将来を見据えるために、ぜひ身につけておきたいのが「数値化」のスキルだ。資本主義社会では、お金の動きを筆頭とする「数字」をもとに物事を判断するのが欠かせないからだ。

したがって、新規事業やプロジェクトを立ち上げるにあたり、必ずメンバーに入れておきたいのが、ファイナンス(財務)やアカウンティング(会計)のスキルを備えた人材だ。経験者をアサインできなければ、未経験者のリスキリングをするしかない。

また、他のメンバーにも数値化スキルを学ばせることは、損にならないはずだ。会社の数字がわかっている人材が多いほど、より正確な予測や意思決定ができるからだ。

本書『ビジネススクールで身につけるファイナンス×事業数値化力』は、書名の通り、企業のファイナンスや数値化力をリスキリングしようとする初学者にうってつけの一冊。基本的な考え方をおさえた上で、理論や、実際に数字や数式を使うケーススタディーに挑戦でき、通読すれば一通りの実務の基礎が学べる。架空のビジネススクールの社会人学生たちと著者との対話形式で「ありがちな疑問」に答えていく箇所もあり、現実に則して理解を深めていけるだろう。

著者の大津広一氏は、富士銀行(現みずほ銀行)、英国バークレイズ証券、ベンチャーキャピタルを経て、2004年にオオツ・インターナショナルを設立し、代表取締役に就任。米国公認会計士。ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院客員教授で、東京証券取引所上場企業複数社での社外役員を兼務する。

「時間には価値がある」という前提

本書で扱われているファイナンスはコーポレート・ファイナンスであり、著者は「投資と資金調達の両者を定量的に評価し、最適な意思決定を行っていくためのフレームワーク」を提供するものと定義している。また「将来の事業を構想し、具体的な数値に落とし込む力」を「事業数値化力」と呼び、ファイナンスが数値化のためのツールになるとしている。ここでいう事業には、新規事業の立ち上げだけでなく、M&A(合併・買収)、機械の導入による自動化、サプライチェーンの適正化なども含んでいる。

最初に著者が「ファイナンス理論の出発点」として説明するのが「時間には価値がある」という前提だ。「今日受け取る100円は明日受け取る100円より価値がある」のだという。金額が100円では少なすぎて実感がわかないので、例えば今日1億円を受け取ったとしよう。そのお金を銀行に年利1%の金利で預ければ、明日には2739円の利息がつく。しかし、明日受け取る1億円は、明日の時点で1億円のままだ。「今日の1億円」が、時間の経過とともに「明日の1億円」より価値を持つようになるのだ。

その前提のもと、ファイナンスの世界では、DCF法(Discounted Cash Flow=割引現在価値法)と呼ばれる手法が用いられるという。未来のある時点で持つであろう価値を予測し、そこから割り引いて現在価値を算定する方法だ。金利5%の場合に、3年後に100円を持つようにするには、現在86.4円を持っていればいい。このケースをDCF法でいうと、「3年後の100円」の現在価値は「86.4円」であり、割引率(Discount rate)は5%である、ということになる。

本書で扱われているファイナンスや事業数値化力が、「未来の数字」を予測して、それをもとに意思決定をするためのものであることを考えれば、「時間には価値がある」という前提も納得できるのではないだろうか。

さまざまなキャリアからのリスキリングの参考に

どうもピンとこないという人もいるかもしれない。しかし、まずはこうした手法を肌感覚として自分のものにすることが、実務で使える実践スキルを身につけることにつながっていくのだろう。著者は、そのためには「自分ごと」に置き換えながら学ぶことを勧めている。自分になじみのあるスケールの数字に置き換えてみる、自社や自身のケースを想定し「自分が当事者だったらどうするか」と考えてみる、といったことだ。

なお本書には、架空の社会人学生として5人が登場するのだが、それぞれ「営業一筋」「工場での品質管理と管理業務を担当」「入社時は営業だったがここ5年は経理部門に配属」「入社以来一貫して人事畑」「電機メーカーの工場勤務、新規や更新設備等投資の判断と投資後の管理業務を担当」とキャリアやスキルがバラバラだ。この5人がチームとなり、ケーススタディーに臨んだ時の会話が興味深い。それぞれの立場や経験をもとに意見を発するのだが、これは異分野からのリスキリングに挑戦しようとする読者には、大いに参考になるのではないだろうか。

いきなり数字や数式を理解するのは尻込みしてしまうという人は、まず理論や考え方の説明だけでも拾い読みしてみてはいかがだろうか。それだけでも大枠の「センス」がつかめるに違いない。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

ビジネススクールで身につけるファイナンス×事業数値化力

著者 : 大津広一
出版 : 日経BP 日本経済新聞出版
価格 : 1,980 円(税込み)

情報工場
広い視野と創造力を育成する「きっかけ」として、様々な分野から厳選した書籍をダイジェストにして配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を展開している。「リスキリングbooks」は、「SERENDIP」で培った同社ならではの選書力を生かし、リスキリングに役立つ書籍を紹介する。

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