五輪終了後、コロナの感染拡大に再び世間の目が向けられ、通常よりもメディアや公の場に呼ばれる機会が少なかった分、選手たちは次の目標に意識を向けて、通常の練習に集中しやすかったのではないでしょうか。何より、次の2024年パリ五輪まであと3年しかないという状況でしたので、「次を見据えなくては」「休んでいる場合じゃない」と考えていた選手も多いと思います。他のスポーツに比べ、陸上のトラック種目は観客を入れての試合再開が早かったことも、通常の練習モードに切り替えやすい要因だったかもしれません。
米オレゴンで初めて開催される世界選手権の代表内定を獲得した選手たちは、ぜひ、パリ五輪を見据えて世界での経験を積んでほしいと思います。日本選手権で優勝したものの、まだ世界選手権への参加標準記録を突破していない選手は、期日までの大会でなんとか突破できるように頑張ってほしいです。
4日連続で観戦して感じた、ファン獲得という大きな課題
さて、今回の日本選手権は、私が日本陸上競技連盟の副会長に就任して初めての日本選手権ということで、初めて4日間フルに観戦し、プレゼンターなども務めさせていただきました。さまざまな種目の選手の頑張りを間近でじっくり見せていただき、刺激を受けると同時に、観客席がガラガラな状態を目の当たりにして、競技人気の向上が今後の大きな課題であると実感しました。平日だったとはいえ、花形種目の男子100メートルの決勝が行われた日も、ホームスタンド以外の観客席は空席が目立ちました。見に来てくださった観客は陸上競技の熱心なファンが多い印象で、欧州などのように「ちょっと陸上競技でも観戦しに行こうか」という感覚で気軽に訪れてくれる観客は少ないようにも思いました。
原因はいろいろあると思います。陸上競技の大会は陸上競技場で開催しなければならないため、会場規模が大きく、空席が目立ちやすいこと。また、400メートルトラックとその内側のフィールドでさまざまな競技を同時進行しているので、自分の席から遠い場所では何をやっているのか分かりにくい面があります。トラック種目とフィールド種目を同時に開催することから、一斉のブレイクタイムのようなものがなく、バスケットボールのようなスポーツDJや音楽を使った、盛り上げる演出がしにくいという事情もあります。エンターテインメント的な要素が乏しく、遠くの方で何をやっているのかが分からない…そうした状況なので、初めて陸上を観戦にきたお客様はつまらなく感じてしまうかもしれません。
もちろん、100メートル決勝のように、スタート前に「シーーーッ」という効果音が鳴ることで会場中の視線が一カ所に集まり、競技場内が沈黙に包まれる光景は、息を飲む一体感を感じさせる面白い演出だと思います。ルールとして定められているわけではない中で、会場観客とアスリートが緊張感を共有するという、陸上ならではの演出は、1つの魅力とも言えます。ただ、ほかの競技には適用しにくいのが難点です。4日間連続で平日を含めて開催する点も、観客が気軽に足を運びにくい一因かもしれません。
「デフ種目」の面白さももっと分かりやすく伝えたい
これから一般の方に陸上競技にもっと関心を持ってもらい、気軽に足を運んで楽しんでもらうためには、さまざまな工夫が必要でしょう。可能かどうかは別として、例えばトラック種目とフィールド種目を分けて開催する。連続4日間ではなく、2週にわたって土日に開催する。効果音をうまく使ってエンターテインメント化するなど、前例や固定観念にとらわれず、あらゆる方法を模索しなくてはいけませんし、挑戦できるチャンスはたくさんあると思います。今回の日本選手権の後半の2日間は、土日だったため、大会前に小学生が走るレースもありました。そういう日は、陸上に興味のある小学生を無料で招待してもいいのではないかと思いました。