日経Gooday

最終日の日曜日には、日本選手権のオープン種目として初めて「デフ(Deaf)種目」(100メートル、800メートル、4×100メートルリレー)を実施しましたが、この進行にも工夫の余地があると感じました。デフとは聴覚障害がある人の種目のことです。パラリンピックの種目には含まれず、4年に1度、デフリンピックという世界大会が開催されます。競技規則は一般の大会と同じですが、競技中は補聴器などの機器を装用することができないなどのルールがあります。

デフ種目のスターターは、選手が目で見て分かるように、選手の横ではなく前に立ちます。音や審判からの合図が聞こえないので、選手紹介が始まるタイミングや、スタートするための「セット」はスタッフが手話で知らせます。スタートは、光刺激スタートシステム(スタートランプ)による光が合図になります。こうしたデフ種目の仕組みについて、スタート前にアナウンスを使って会場に説明すれば、観客にも分かりやすく、もっと面白くなるのに、とも思いました(日本陸連のホームページではデフ種目について紹介しています)。

応援の仕方についても、声援の代わりにどんな応援をすれば選手に届くのかをアナウンスで呼びかけてくれれば、応援しやすくなり、選手にももっと喜んでもらえるように思いました。例えば、両手で手のひらをひらひらさせると、それが手話による「拍手」になります。2本の細長い風船(スティックバルーン)を叩いて見せることも応援になります。同じ場所で開催する以上、「何のために障害がない人とある人のスポーツを一緒にやるのか」という根本をしっかり考え、知ってもらうためのさまざまな工夫を取り入れて初めて、障害がある人とそうでない人がスポーツを通じてその場を共有・共感できる共生社会へとつながっていくのだと思います。

運営側としてはやることがたくさんあって大変だと思うのですが、それぞれの競技をどういう角度から切り取って見せれば魅力がより伝わるのかを、もっと考えなくてはならないように思います。そして何よりも、「陸上競技を観に行きたい!」と思ってくれるファンを獲得するには、スターの存在が不可欠です。スター選手をもっと生み出すような強化策も考えなくてはいけないでしょう。

日本陸連は今年5月、2025年世界陸上競技選手権大会の日本での開催に向けた招致活動に動き出しました。会場として、東京五輪のメインスタジアムとして使われた国立競技場の使用を希望し、東京都に協力要請を行っています。まだ開催されるかどうかは分かりませんが、多くの人が陸上を楽しんでもらえるような施策を考え、実行できるように、みんなで知恵を絞りながら考えていければと思っています。

(まとめ 高島三幸=ライター)

[日経Gooday2022年6月28日付記事を再構成]

有森裕子さん
元マラソンランナー(五輪メダリスト)。1966年岡山県生まれ。バルセロナ五輪(1992年)の女子マラソンで銀メダルを、アトランタ五輪(96年)でも銅メダルを獲得。2大会連続のメダル獲得という重圧や故障に打ち勝ち、レース後に残した「自分で自分をほめたい」という言葉は、その年の流行語大賞となった。市民マラソン「東京マラソン2007」でプロマラソンランナーを引退。2010年6月、国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初めて受賞した。

「日経Gooday 30+」の記事一覧はこちら

医療・健康に関する確かな情報をお届けする有料会員制WEBマガジン!

『日経Gooday』(日本経済新聞社、日経BP社)は、医療・健康に関する確かな情報を「WEBマガジン」でお届けするほか、電話1本で体の不安にお答えする「電話相談24」や信頼できる名医・専門家をご紹介するサービス「ベストドクターズ(R)」も提供。無料でお読みいただける記事やコラムもたくさんご用意しております!ぜひ、お気軽にサイトにお越しください。