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リスキリングの意味を、個人のキャリアアップのための「再学習」に限定して捉えている人も多いのではないだろうか。しかし、リスキリングには、組織的なプロセスも含まれる。企業でいえば人材マネジメントの一環であり、事業転換や新規事業に伴い、新たに必要となるスキルを社内の人材に身につけさせる。欧米では、その意味でリスキリングという言葉が使われることが多いという。

「組織のリスキリング」とでも呼ぶべきこのプロセスでは、従来、日本企業で一般的に行われている「人が人を教える」かたちの職場内訓練(OJT)が通用しない。指導する立場の上司や先輩が、新たなスキルを持っていないからだ。

リスキリングは個人のセルフマネジメント・セルフラーニングを基本としなければならない。それを組織が仕組み化、システム化した「スキルマネジメント」を提唱するのが、本書『従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント』だ。著者自身が経営する企業での実践例をもとに、スキルマネジメントの考え方や方法論を詳しく解説している。

著者の中塚敏明氏は、武蔵工業大学(現東京都市大学)大学院修了後、NTT東日本法人営業本部にて、大手企業のさまざまなネットワークインテグレーションを手がけた。2011年にネットビジョンシステムズを設立。能力開発をマネジメントするスキルマネジメントシステム『skillty』を考案・開発し、22年にこのシステムの販売や組織改善コンサルティングを手がける会社、スキルティ(東京・中野)を設立した。

中塚氏はスキルマネジメントを「従業員の能力開発と会社の方向性をすり合わせ、個々が自律的にキャリアを形成する、従業員目線による新たなマネジメント手法」と説明する。あくまで能力開発を「自律的」なものとし、人材育成を「人」に代わり「仕組み」が担うのが特徴だ。

マネジャーの「寄り添い疲れ」を解消

本書では、中塚氏がスキルマネジメントを開発したきっかけに、自身が起業したネットビジョンシステムズにおける「失敗」があったことが明かされる。

同社は、15年で創業5期目に入り、50人超の従業員を抱えるまでに成長した。しかし、業務拡大に伴う人手不足解消のために、積極的に採用活動を続けていたものの、新人を採用しても数カ月後には退職される事態が続く。17年には離職率が40%を超えたという。

そこで従業員エンゲージメントを測定する「エンゲージメント・サーベイ」を実施したところ、エンゲージメント・スコア(組織偏差値)で平均以下の数値が出てしまう。従業員エンゲージメントとは「企業と従業員の相互理解や従業員の自社への貢献意欲」を表す言葉だが、測定により、会社の制度・待遇への社員の強い不満が存在することが判明。特に人事評価制度における公平性や透明性、納得性への不信感があったそうだ。

その結果を受けて中塚氏は人事評価制度の改革に取り組む。するとすぐに組織偏差値が上昇し、離職率も低下した。だがその一方で、会社の業績が伸び悩むとともに、ミドル層にあたるマネジャーの離職が目立つようになる。原因は、新たな人事評価制度のもとで「一般社員への支援」という負担が増したマネジャーたちの「寄り添い疲れ」だった。

こうした弊害を取り除くために中塚氏が考案したのが、従来上司が行っていた部下へのマネジメントを、部下本人のセルフマネジメントに任せるスキルマネジメントシステムだ。その導入により、マネジャーの組織偏差値は急上昇し、22年には離職率が4.5%にまで激減。従業員エンゲージメントの上昇が業績アップにも結びついたという。

4つの仕組みを使いPDCAを回す

中塚氏の開発したスキルマネジメントシステムには、4つの仕組みがある。各種能力を一覧にした「スキルマップ」、能力をチェックリストにした「スキルボックス」、能力を軸にキャリア形成を計画する「キャリアマップ」、目標と現状のスキルとのギャップを把握する「能力分析」だ。この4つを使いPDCA(計画、行動、点検、修正)を回していく。

①スキルマップとキャリアマップを使ったPlan(目標設定)
②①の目標のもと、身につける能力(スキルボックス)を意識してDo(実行・促進)
③スキルボックスのチェックリストを組み込んだ週報で達成・未達成の確認と振り返りをするCheck(進捗管理)
④スキルボックスと連動した週報を使ったAction(行動修正)

なお、②においては、スキルボックスに紐付けたeラーニングが導入されているそうだ。

スキルボックスをふんだんに使ったPDCAには、ゲーミフィケーションの要素も取り入れられている。ゲームのようなステップアップの達成感を得ながら能力を身につけられるとのことだ。上司にダメ出しや叱責をされながらのOJTとは違い、個々がプラスの感情を持ちながら取り組めるため、職場の雰囲気をよくする効果もあるのだろう。

本書で紹介されたシステムを応用、あるいは一部でも取り入れて、自社の人材開発やリスキリングに役立ててみてはいかがだろうか。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

情報工場 
広い視野と創造力を育成する「きっかけ」として、様々な分野から厳選した書籍をダイジェストにして配信するサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を展開している。「リスキリングbooks」は、「SERENDIP」で培った同社ならではの選書力を生かし、リスキリングに役立つ書籍を紹介する。

従業員エンゲージメントを仕組み化する スキルマネジメント

著者 : 中塚敏明
出版 : クロスメディア・パブリッシング
価格 : 1,958 円(税込み)

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