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広がるコロナ感染 仲間との絆はより深く(井上芳雄)

第120回

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NIKKEI STYLE

日経エンタテインメント!

井上芳雄です。ミュージカル『ガイズ&ドールズ』は7月29日に福岡の博多座で千秋楽を迎えました。6月9日から帝国劇場で始まった東京公演は、関係者の新型コロナウイルス感染症の陽性反応が確認されたことから、日程の半分近くが中止に。福岡での公演も1回中止となりました。コロナ感染の拡大で演劇界には厳しい状況が続いています。そんななかで感じたことを書いておこうと思います。

東京では、帝劇で公演ができなかった間、キャスト同士はLINEグループで励ましあっていました。僕も折に触れてメッセージを送って、「東京の千秋楽はやりたいね。1日だけでもやれればいいね」と希望をつないでいたのですが、それも中止となったので、みんなショックだったろうと思います。LINEでも誰も何も言わなくなったので、僕が口火を切らないと言いにくいのかなと感じて、「ちょっとほっとしたような、悔しいような気持ちです」と送りました。帝劇の最終日だけでもやれれば、お客さまもこちらも多少は救われるんじゃないかと思う一方で、カンパニーのそれぞれがどういう状況にあるか分からないし、焦って再開して、万全じゃないものをお客さまにお見せするのは違うだろうから、これでよかったんだという気持ちでした。みんなやりたいのは一緒だけど、次は博多座での公演再開に向けて気持ちを切り替えて、また会いましょうと。

そんなことがあっての福岡公演だったので、いつもの地方公演とはカンパニーも違った様子で、半月以上ぶりにみんなが再会できて感慨もひとしお。東京をはじめ日本全体の感染状況が悪くなってきたなかで、博多座の幕が開いたときは感激しました。こういう時期なので、いくら願っても果たせないことはたくさんあると思うのですが、再会を果たせてうれしかったです。

開幕から3日目くらいに、演出家のマイケル・アーデンが福岡に来てくれました。東京でやっていたコンサートが終わって駆けつけてくれて、「作品がどうなっているか緊張しながら見たけど、東京でみんなで作ったのと変わらないパフォーマンスを見ることができて、本当に感動した」と言ってくれました。会うのは帝劇での初日以来くらいだし、東京公演の多くが中止になったことで、ただ再会したのとは違って、みんなと抱き合いたいような気持ちだったと思います。僕たちも、お客さまのいろんな反応を受けとめながら公演を重ねてきたので、それを演出家と分かちあえてよかったです。

福岡でも、関係者に新型コロナの陽性反応が確認されて、7月20日の公演が中止になりました。中止が決まったのは開演の直前、30分くらい前。僕はメイクを始めようとしていたところでした。お客さまはもう入っていたので、「僕たちにできることはないですか」と制作の人と話して、僕、明日海りおさん、浦井健治君、望海風斗さんの4人が舞台で挨拶をすることにしました。制作サイドは俳優陣が矢面に立つことを心配してくれましたが、「それも含めて仕事だし、役割だから大丈夫です」と言って、けいこ着でマスクをして、支配人が挨拶した後に僕たちが出ていくことになりました。

舞台に出た支配人が中止になったことを告げた途端に、お客さまの悲鳴のような声が聞こえて、舞台袖にいた僕たちも胸が痛みました。こんな時に何を言うべきかドキドキしましたが、しゃべったことは四者四様。明日海さんは「自分たちもやりたい、だけどできないんです」と真摯に、浦井君は「遠方から来てくださった方もたくさんいるでしょうけど、お見せできなくて残念です」、望海さんは「今日は悲しいけれど、そのぶん皆さんに幸せなことがありますように」といったことを言いました。僕は、座長としてまず申し訳ないという気持ちを伝えて、「こういうときに申し訳ないと言わないでほしいという意見もあるけど、やっぱりこの場においては申し訳ない気持ちです」と。そしてシリアスなままで終わるのも悲しいから、「今日は朝の9時から髪を切りに行って、さっぱりした姿を皆さんに見てもらおうと思っていたので残念です」と深刻になりすぎないようにコメントしました。

結果的には、お客様ももちろん残念な気持ちがありながらも、理解して帰ってくださったようで安心しました。それでも後で、こんなことも言えたんじゃないかとか、ほかにもやれることがあったんじゃないかとか、いろいろ考えたので、苦しい状況ではあります。今回のように役者が表に立つのがよかったかどうかも分からないし、いつも同じような対応ができるとも限りませんが、自分が座長をやっているときは、できる限りのことをしたいと思っています。

僕たち自身も、公演がまた止まったのはショックだったし、再開できるかどうか不安もあったのですが、公演中止はこの1回だけでした。イレギュラーなことは起こるものだし、起こった事態にどう対応するか。それを、その瞬間、瞬間で考えて精いっぱい対応するしかないということを、あらためて実感しました。判断するのは難しいことですけど。

カンパニーを支えた縁の下の力持ち

福岡では、こんな出来事もありました。今回のカンパニーにはスウィングという役割の俳優さんがいます。茶谷健太君で、男性のアンサンブルの代役を1人でカバーしています。みんなの振りと動きとセリフを全部覚えていて、舞台中も袖に待機していて、誰かに何かあったらすぐ代わりに入れるように準備しているのが仕事です。稽古もみんなと同じようにして、ずっと縁の下の力持ちとしてカンパニーを支えてくれました。

その彼が、博多座で開幕して数日たったとき、「次の作品に行かないといけないので、明日が最後なんです」と挨拶に来てくれました。それまで代役の出番はなかったので、「1回も出なかったね」と言ったら、「スウィングは出番がないのが一番いいことなので、このままいってほしいです」と答えてくれました。それで最後の日に出る機会をつくれないかとスタッフの方とも相談して、昼夜公演のそれぞれで彼が出ることになりました。用意してあった衣装を初めて着て、4カ所くらいに出たのかな。難しいダンスナンバーも完璧に踊っていました。ダンサーは場所も動きも一人ひとり違うので、それをちゃんとカバーしていて素晴らしかったです。

最後にカーテンコールで茶谷君を紹介したのですが、感極まってすごく泣いていました。僕も泣きました。もう20年以上やっているので、初日や千秋楽のカーテンコールでもまず泣かないのですが、久しぶりに。ほかのキャストもたぶん泣いていたと思います。彼のそれまでの頑張りをみんな知っていて、表の舞台に出ずに、振りやセリフを1人だけで覚え続けることの大変さをよく分かっていたので、本当によかったという空気で終わりました。みんなそれぞれに、自分たちがやっている仕事やパフォーマンスの尊さとか、お互いに支えられながらやっていることとか、思うことがあったのではないでしょうか。

スウィングは日本ではまだ定着していなくて、海外でもいろんな形があるようです。週に何回出ると決まっている人もいるし、今回の茶谷君のように出ないタイプのスウィングもいます。でも、この仕事をやっている以上、お客さまの前でパフォーマンスしたいという気持ちは誰しも持っているし、そのために頑張るわけだから、やっぱりお客さんの前でやる機会があるというのは大事なことじゃないかなと、僕は思います。

世の中全体を見ると、コロナ感染がまた広がって、いつ誰が陽性になってもおかしくない状況です。それでも、できるだけ行動制限をせずに社会や経済の活動を回していこうというふうになっているし、以前に比べると人出も戻ってきていて、人々の考え方も変わってきています。その状況と、演劇との相性が今は悪過ぎると感じます。コロナの陽性者が1人出たら活動を全部止めようという世の中ではなくなりつつあるのに、舞台はそうはいかない。軽症が多くなったとはいえ、そうではない場合も多くて、僕自身の感染経験に照らしても、すぐに元通りの体調やパフォーマンスが戻らないという現実もあります。だからこそ何が起こってもいいように、スウィングのようなバックアップを準備しながらやるしかないし、それも人数が多くなったら追いつかないので、本当に厳しいですね。

カンパニーには、コロナ感染のリスクだけじゃなくて、いろんなアクシデントやトラブルも毎日のようにあります。それに対応していったり、その中でお互いが理解を深めたり、気持ちを分かちあうようになるのは、いいことだと思うんです。今は飲み会もできないし、地方に行っても、一緒にご飯を食べたりワイワイ騒ぐこともできないから、前に比べたら深く知り合える機会が少なくなりました。でも、みんなで困難を乗り越えるという意味では、お互いを理解できているし、それ自体は悪いことじゃないのかなと感じています。

ミュージカル俳優にも様々なタイプがいる

僕がMCの1人をやらせてもらっている『行列のできる相談所』(日本テレビ系)では7月17日に初めてミュージカルスペシャルが放送されました。ゲストとして市村正親さん、浦井健治君、昆夏美さん、斎藤司(トレンディエンジェル)さん、ソニンさんに出ていただき、僕がMCを務めました。

バラエティーの王道のような番組でミュージカルの特集をやってくれて、多くの方が見てくださって、反響もすごくあったので、よかったと思います。ミュージカルをもっと知ってほしいという思いはずっとあるのですが、そのときの肝は興味がない人にも面白そうだと思ってもらえるかどうか。難しいのは、ミュージカルを愛するファンの方々からすると、面白おかしくやり過ぎて、すぐに歌い出すみたいなところばかりに特化すると、それは違うでしょとなることです。僕もその気持ちは分かるし、かといってシリアス一辺倒でも楽しめない。そこのバランスが難しいと常々思っていました。

そういう意味では、今回はよいバランスでした。初心者は何のミュージカルから見ればよいのかというQ&Aがあったり、市村さんをはじめそれぞれの俳優にもフォーカスしてもらったし、最後はみんなで歌って、面白おかしくだけじゃない伝え方ができたように思います。僕にしても、番組的にはミュージカル界の大スターみたいなキャラクターになっていたのですが、昆さんに「芳雄さん、歌詞を忘れてましたよ」とツッコまれて、たじたじとなるやりとりがあったりとか、また違った面を紹介してもらえてうれしかったです。

コロナ感染の急拡大で演劇界は厳しい状況ですが、『行列のできる相談所』で特集をしていただいたように、ミュージカルへの注目度が増えているのはありがたいことです。今大事なのは、厳しい状況になんとか対処して、やれることをしっかりやって、元に戻ったときに備えておくことでしょう。その対応力が試されている日々だと感じています。

『夢をかける』 井上芳雄・著
 ミュージカルを中心に様々な舞台で活躍する一方、歌手やドラマなど多岐にわたるジャンルで活動する井上芳雄のデビュー20周年記念出版。NIKKEI STYLEエンタメ!チャンネルで月2回連載中の「井上芳雄 エンタメ通信」を初めて単行本化。2017年7月から2020年11月まで約3年半のコラムを「ショー・マスト・ゴー・オン」「ミュージカル」「ストレートプレイ」「歌手」「新ジャンル」「レジェンド」というテーマ別に再構成して、書き下ろしを加えました。特に2020年は、コロナ禍で演劇界は大きな打撃を受けました。その逆境のなかでデビュー20周年イヤーを迎えた井上が、何を思い、どんな日々を送り、未来に何を残そうとしているのか。明日への希望や勇気が詰まった1冊です。
(日経BP/2970円・税込み)
井上芳雄
 1979年7月6日生まれ。福岡県出身。東京藝術大学音楽学部声楽科卒業。大学在学中の2000年に、ミュージカル『エリザベート』の皇太子ルドルフ役でデビュー。以降、ミュージカル、ストレートプレイの舞台を中心に活躍。CD制作、コンサートなどの音楽活動にも取り組む一方、テレビ、映画など映像にも活動の幅を広げている。著書に『ミュージカル俳優という仕事』(日経BP)、『夢をかける』(日経BP)。

「井上芳雄 エンタメ通信」は毎月第1、第3土曜に掲載。第121回は8月20日(土)の予定です。

夢をかける

著者 : 井上芳雄
出版 : 日経BP
価格 : 2,970 円(税込み)

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