いずれイノシシ肉で作りたいという「トフェイヤ」。Fattoria Da Sasinoのワインはボトルのみの提供

食通のあいだでその独特の風味と食感が愛されるジビエは、意外にも、林シェフの地元では人気の食材とはいいがたい。「親の世代である60代くらいは、知り合いからジビエをもらって食べたが、処理の仕方のせいか、固くて臭いというイメージから抜け出せないんです。逆に若い方は、都会でジビエが話題なので食べてみたいけれど、食べたことがないし、家庭での調理の仕方がわからないようです」と林シェフ。

国が定める狩猟期間は11月15日~2月15日で、まだ禁猟期間である10月末に、「Il Filo」でジビエメニューを中心にいただいた。ジビエとは狩猟した野生の鳥獣を指すが、店では禁猟期間中は主に飼育された鳥獣を出している。

前菜は自家製サルーミ(食肉加工品)の盛り合わせ。ジャパンフォアグラ(青森市、フォアグラの飼育・生産はすでに中止)で飼育するバルバリー種のカモの生ハム、国産豚のカポコッロ(首肉)や生ハム、サラミ、薫製パンチェッタ(バラ肉)、モルタデッラ(加熱ソーセージ)のほかに、十和田市短角牛の生ハムであるブレザオラなど7種である。ソムリエ資格をもつ林シェフが選ぶワインと合わせるために、サルーミの塩分は控えめで、とくにモルタデッラはイタリア産と比べてもまったく引けをとらない。

「イノシシ肉のアニョロッティ ポルチーニのペースト」

ズッパ(具入りスープ)は「トフェイヤ」というイタリア北部ピエモンテの料理である。豚のホホ肉、耳、舌、豚足などを香味野菜、白インゲンマメと煮こんでいる。いろいろな部位の食感の違いが楽しめ、寒い季節に体が温まるこの料理を、「イノシシ肉でできればいいと思ってます」と林シェフ。野生のイノシシの生息区域の北限は宮城県とされていたが、温暖化の影響で青森県でもイノシシによる農業被害が確認されているという。いずれ駆除されたイノシシ肉で食べられる日が来るかもしれない。

パスタは「イノシシ肉のアニョロッティ ポルチーニのペースト」。アニョロッティもピエモンテの郷土料理で、通常は牛肉や豚肉を詰めたラヴィオリである。この日は、奥津軽いのしし牧場(青森県今別町)で飼育され、抗原検査に合格したイノシシの肉が詰め物に使われた。食べ進むうちに、牛や豚とは違う、特有のパワーがイノシシ肉にあるのに気づく。その力強さが、上にかけられた黒トリュフの風味に負けず、強い印象を残す一皿に仕上がっている。合わせた赤ワインは、修業先である「Da Sasino」の自社ワイナリー「Fattoria Da Sasino(ファットリア・ダ・サスィーノ)」の「弘前ロッソ2020」。スパイシーなワインがイノシシ肉に合う。