農芸化学を学んだ人ならみんな知っていることですが、特定の作物だけを作る農業経営のやり方、いわゆる「モノカルチャー」は環境の激変に対し、とても脆弱です。その典型がバナナです。1900年代の初め、「グロス・ミシェル」という種が発見され、クリーミーでおいしいと大人気となり、世界中の巨大農園が「グロス・ミシェル」ばかりを作るようになりました。ところが、真菌の一種が引き起こす「パナマ病」の流行で、この種は60年代までにほぼ全滅してしまったのです。

心に届かない言葉 何度発しても無意味

その後、パナマ病に強い品種として作られたのが今、主流の「キャベンディッシュ」ですが、これもひとたび病原菌が蔓延(まんえん)すれば絶滅するリスクがあります。モノカルチャーは危険と分かっているので、ユーグレナの培養でも我々は多様性を非常に大事にしています。そういうことを知っている農芸化学系の人たちに向けては、組織でも似たような人ばかりが集まっているとバナナみたいになるよと言えばパッと分かってもらえます。

ダイバーシティーを含め、今はあちこちでSDGs(持続可能な開発目標)の大切さが言われていますが、1回言って伝わらなかったからと同じことを10回繰り返し、それでも駄目なら100回、1000回と言い続けるのは愚の骨頂。心に届かない言葉は何度発しても無意味です。新しい概念やフィロソフィー(哲学・理念)を浸透させる時は、特にどうすれば本当に相手に届くのか。知恵を絞る必要があります。

難しい話だけでなく、普段から「どうも自分の言っていることが伝わっていない」ともどかしく思う時、私たちはつい理解しない相手が悪いと相手のせいにしてしまいがちです。でも、そこで立ち止まり、自分の伝え方がまずいのではないか、孔子の教えを忘れて伝える努力をさぼっているのではないかと振り返ってみることが大事ではないでしょうか。私自身も「辞は達するのみ」というシンプルな言葉を常に忘れずにいたいと思っています。

出雲充
1980年広島県生まれ。2002年東大農学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。05年ユーグレナを創業。同年、世界初となる微細藻類「ミドリムシ(学名・ユーグレナ)」の食用屋外大量栽培に成功。世界経済フォーラム(ダボス会議)のヤンググローバルリーダー。第1回日本ベンチャー大賞「内閣総理大臣賞」受賞。経団連審議員会副議長。

(ライター 石臥薫子)

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