
7割が「取り組みが進んでいない」
日経xwomanのアンケートで、自分が働く組織のダイバーシティ推進度について、「トップ、管理職、従業員など組織全体で理解をし、実行している」と回答した人は、2482人中588人。全体の23.7%にとどまった(下のグラフの赤色部分。以下「多様性先進組織」)。逆の見方をすれば、回答者の70%以上が、自社の取り組みが道半ばであるか全く進んでいないと感じている。なかでも「組織全体で全く理解・推進していない」という「多様性ゼロ組織」で働く人は、503人に上った(20.3%、下のグラフの水色部分)。

では、組織のダイバーシティ推進度は、働く女性のキャリア意識にどのような影響を及ぼすのだろうか。アンケートでは、回答者全員に、将来どのようなかたちでキャリアを形成したいかを質問し、ダイバーシティの推進度と照らし合わせて分析した。その結果、「多様性先進組織」で働く女性たちと、「多様性ゼロ組織」で働く女性たちでは、キャリア継続の希望が大きく異なることが分かった。

「多様性先進企業」で働く女性たち(上グラフの赤い帯)の回答で最も多かったのが、「今いる組織の中でキャリアアップを目指したい」(41.3%)。「キャリアアップは目指さず、今いる組織で仕事を続けたい」と回答した人(21.9%)も合わせると、60%以上が、今いる組織で働きたいと答えている。
企業のダイバーシティ施策に詳しい中央大学ビジネススクール 准教授の高村静さんは、「キャリア継続意識の高い女性が、ダイバーシティ推進に積極的な企業を選んでいる可能性がある。あるいは、企業がダイバーシティ施策を進めた結果、女性社員のキャリア意識が高まったというケースも考えられる」と分析する。
一方、「多様性ゼロ組織」で働く女性たちは、33.2%が転職を希望。また18.7%が独立を希望しており、合計で実に50%以上が、組織を離れたがっているという結果になった。
「転職や独立を希望している女性たちは、キャリアアップへの意欲が高い可能性がある」と高村さん。「ダイバーシティ環境のない組織では、望んだキャリアをかなえられないと感じ、他社に活躍の場を求めているのだろう。仕事への意欲が高い女性たちを手放してしまうことは企業にとっての損失だ。企業は、こうした女性たちの存在にまずは気づき、経験を積ませ能力を高めてほしい」と提言する。
(取材・文 久保田智美=日経xwoman編集部)
中央大学大学院 戦略経営研究科(ビジネススクール) 准教授。博士(学際情報学)。89年に三井生命保険入社後、メリルリンチ・マーキュリー投信投資顧問などを経て、09年に東京大学社会科学研究所特任研究員。同年、内閣府男女共同参画分析官。経済産業研究所コンサルティング・フェロー、内閣府経済社会総合研究所客員研究員、成城大学特別任用教授などを経て、19年から現職。専門は人的資源管理、組織行動、キャリア論、ワークライフバランス論。