個々の気づきを全員でシェア

「島で気づいたのは、横浜・崎陽軒のシウマイをお土産で買っていくと、シウマイ1箱でタイ5匹くらいのお礼が返ってくるのです。それだともらい過ぎてしまった感じがするので、お礼を言うんですが、島でお礼をするときは3回くらい言った方がいいと聞きました。もらったその日に1回、翌日くらいに『きのうのタイ、おいしかったです』、またしばらくしてどこかで会ったときに『この前のあれ、どうも』と。そこで考えたのは交換の意味でした」

「通貨を使えば等価交換できるので便利です。英語finance(ファイナンス)はfinish(フィニッシュ)と同じ語源だそうです。古フランス語でfinanceはお金を払って事を終わりにするという意味があり、等価交換は関係性を終了してしまう。でも島という小さなコミュニティーで暮らしていくには、関係性が終わらないほうがいいのです。等価交換ではなくて『あの人にタイをもらったから、お礼は3回言っておこう』とか『今度はチョコレートを買ってこよう』と思った方がコミュニケーションの数、交換の数が増えるじゃないですか。だから、どちらかが健全な負債感を持っていたほうがいい。常に不等価な交換を続けているのは、コミュニティーの関係性を維持するためなのだなとか、暮らしの中でいろんな気づきがありました」

脱線することで気づいたことや感じたことをシェアすることで、組織全体のクリエイティビティーも進化する。コロナ禍以前は、社員にも1年に1回は海外出張に行き、多様な刺激を受けることを推奨していた。

出版不況の中、業績は好調だが社員もタイトル数も必要以上に増やすことはしはしない。以前は年間20タイトル以上作ったこともあったが、今は年間12、13タイトルを丁寧に作り込む。そのほうが売り上げや利益もついてくるのだという。本を作ることではなく、著者を応援するのが仕事だという軸は決してブレない。そして、著者の熱い思いや優れた考えをより広く、より多く、より長く伝えていく上で、関わる人の想像力ほど大事なものはないと実感している。

「人類は想像力を貸し借りすることで、個人が思い描いていたよりもすてきな未来を作ることができる。『仲間とつくる現実は、自分の理想を超えていく』のです。そのために、僕自身の想像力もこれまで以上に活用していきたいと思っています」

(ライター 石臥薫子)

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