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TikTokに投稿するまでが「ヨーヨー遊び」と再定義

こうした動画制作の土台があったうえで機能するのが、TikTokのSDK(ソフトウエア開発キット)を活用してアプリに搭載した「TikTokボタン」だ。今回、最初からTikTokとの連携を行ったのは、以前SNSによる売り上げアップ効果を目の当たりにした経験があるからだという。それは19年、超小型の室内専用アクロバットラジオコントロールカー「ギガストリーム」を発売したときのこと。ユーザーが作ったユニークな動画がSNSで大きくバズり、結果的に同年末に売り上げが跳ね上がった。

「今やUGC(ユーザー生成コンテンツ)によって話題が広がることは、ヒット玩具の最低条件。それならいっそのこと、『動画投稿するまでがヨーヨー遊び』と再定義し、デフォルトで玩具の機能にUGCを生む仕掛けを埋め込んでしまおうと考えた。そうした判断の下、最も拡散力があるZ世代が一番多く使うツールであるTikTokボタンの実装に踏み切った」(根岸氏)

動画投稿の一連の手順はこうだ。専用アプリで好みのエフェクトを選び、ムゲンヨーヨーと同期させたスマホのカメラで自身のプレーを撮影する。終了すると、TikTokボタンが表示されるのでタップすると、自身のTikTokアカウントに遷移する。そこで通常通り、楽曲を選び、タグ付けをして投稿するだけで、ARエフェクトの付いた映える動画を公開できる。撮影から投稿までが実にスムーズだ。

専用アプリで動画を録画すると、TikTokボタンが表示される
TikTokボタンをタップすると即座に投稿が可能となる。動画はダウンロードしてYouTubeなど他のSNSへの投稿もできる

より技に磨きをかけようと撮影しながら練習することでケイデンス値がたまり、レベルアップして手に入れたエフェクトを使って、従来と違う技で投稿する。そのサイクルを繰り返すことで、多くのUGCが投稿されていく好循環を生むことも可能になる。

こうしてZ世代がTikTokで拡散して話題を作り、それが、ヨーヨーが流行した世代である30代や50代、さらには下の世代である小学生などにも伝播(でんぱ)していく。結果、幅広い年齢層で人気を集めて大きなブームを醸成できる――。タカラトミーは、そんなシナリオを描いているのだ。

では、実際のムゲンヨーヨーの売れ行きはどうか。まずは22年3~4月、タカラトミーはクラウドファンディングの「CAMPFIRE」で支援プロジェクトを立ち上げ、目標金額を297万円と比較的高めに設定した。すると、支援者(購入者)数455人、支援金額約330万円を集め、達成率111%と上々の滑り出しを見せたのだ。

その後、22年5月からタカラトミーの公式ショッピングサイトで限定販売を開始。これも順調に売れ、7月末には用意した個数が早々に完売した。「CAMPFIREの支援者の手元に商品が配送されたのが5月下旬。受け取ったユーザーの方々が動画を次々と投稿してくれ、それをきっかけに売り上げも伸びた。完売まではもっと時間がかかると思っていたが、想定より前倒しで達成できた」(根岸氏)

今後は、22年秋に玩具店、家電量販店の店頭に商品が並び、本格的な販売攻勢の火ぶたが切られる。「イベントなどで実際に体験できる場を提供し、エフェクトの付いた動画を大画面に映して撮った動画をその場でTikTokに投稿できるようにするなどの施策も検討している」(根岸氏)。これが実現すれば、店頭からも数多くのUGCを生み出せることになる。ユーザーの体験を損なわずに話題の拡散を加速させる、実に巧妙な販促手法といえる。

「秋以降の一般販売では、様々な販促策でもう一段階上の流行の波をつくりたい」と意気込む根岸氏

一方、エフェクトについても、TikTokに投稿された動画で使われた回数、投稿への「いいね」の数やコメントの内容などを参考に、受けそうな新しい種類を随時制作し、追加で投入していく計画だ。

従来のヨーヨー人口は男性が圧倒的に多かったが、TikTokでは既に女性の投稿もいくつかある。操作性を簡便にし、手軽に映える動画を作れる設計にしたことで、ユーザーのすそ野は着実に広がっているようだ。ユーザー層が拡大したムゲンヨーヨーが、前回ブームとなったハイパーヨーヨーに匹敵する爆発的な人気を獲得できるか。22年秋以降の商戦から目が離せない。

(ライター 高橋学、画像提供 タカラトミー、写真 古立康三)

[日経クロストレンド 2022年8月25日の記事を再構成]

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