ビジネスに不可欠「アート思考」 未来導く問いの力アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表 小川秀明氏に聞く

アート思考について講義する小川氏(中央)©Ars Electronica - Robert Bauernhansl
アート思考について講義する小川氏(中央)©Ars Electronica - Robert Bauernhansl

ビジネスの世界でアートに対する関心が高まっている。オーストリア・リンツ市の公社「アルス・エレクトロニカ」はメディア・アートの世界的な拠点で、アーティストの思考を取り入れた「アート思考」を早くから提唱。独ダイムラーやNTTなど欧州や日本の企業と連携し、未来を先取りするプロトタイプも制作している。アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表でアーティストの小川秀明氏に、ビジネスにおけるアートの可能性について聞いた。

アートはより良い社会を形成するための触媒

――アルス・エレクトロニカはどんな組織なのでしょうか。

アルス・エレクトロニカ・フューチャーラボ共同代表の小川秀明氏

リンツの市民に向けたサービスを手がける公社の一つで、水道局などと同列の組織だ。水道局は水を市民に提供しているが、私たちは未来を提供している。アルスは、1987年から最先端のメディア・アートを表彰するコンペティション「プリ・アルス・エレクトロニカ」を続けているが、最初の受賞は創業間もない(「トイ・ストーリー」などで知られるアニメ制作の)米ピクサーの作品だ。

2004年には(オンライン百科事典の)ウィキペディアが受賞作となった。著名なアーティストだけでなく、新しい世界を切り開いたイノベーターたちが受賞しているのがユニークだと思う。1996年には常設の教育機関・美術館であるアルス・エレクトロニカ・センター、研究開発(R&D)部門であるアルス・エレクトロニカ・フューチャーラボが発足した。

――ビジネスの世界でアートが注目されているのはなぜですか。

アートは「未来のビジョン」を含めた「問い」を創り出すといわれる。未来により良い社会を形成するための触媒であり、新しい視点を開いて表面から隠れたものへの好奇心を促し、創造的な解決策に導いてくれる。新型コロナのような不透明で不安定な世界において、今まで常識と思っていたものが常識でなくなると感じる瞬間も増えている。そのため、アートの持つ「未来を見通す力」が注目されている。

アーティストは「問い」の中から作品を生み出している。例えば「もっと人間らしく生きるには」「第二の自然としてテクノロジーと共存するには」といった問いから生まれた作品は、社会的・技術的なトレンドを察知したもので、まだ見えない未来を伝えてくれる。私は10年くらい前から「アート思考」という言葉を使い始めたが、欧州のビジネスの現場でこの言葉を話してもなかなか理解してもらえなかった。しかし、この数年で状況は一変した。

オーストリア・リンツ市にあるアルス・エレクトロニカ・センター©Ars Electronica / Robert Bauernhansl

日本では、現場レベルで欧州よりもアートに対して理解がある。しかしマネジメント層は「安心」「安全」「コンプライアンス」を優先するといった既成概念のボックスに入り込み、現場からのイノベーションや創造的な文化を潰してしまっている。日本の大企業が抱える問題に対処するためにも、決定者にこそアート思考が必要だ。

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