コンタクトセンターを巡る一連の改革では、自分を信頼して仕事を任せてくれた上司の存在や「初めて話が通じる人に話をできた」といったオペレーターらの声が支えになった

信頼し任せてくれた上司 現場の声を吸い上げる

電話応答率の向上が課題となった背景には、より広く顧客の声を吸い上げられるように取り組みを進めたことがある。保険業界では生損保ともに05年に保険金不払いが発覚。同社も行政処分を受けた。そこから、顧客に渡すほぼすべての書類に顧客対応窓口となる電話番号を明記。苦情も一元管理し業務改善につなげられるように機能を拡充したのがコンタクトセンターだ。顧客満足とかかわる大事な部署だが、「とってもとっても電話がかかってくる」といった状況はシステム整備を進めながらも一朝一夕には改善しない。当時、電話をとるオペレーターは1年の有期雇用で、離職者数が採用者数を上回る日々が続いた。その状況を改善することも「やるべきこと」に据えた課題の1つだった。

やっぱり一番苦しいのは、オペレーターさんたちですよね。そこで、オペレーターさんたちに個別面談をしてみようと考えました。現場のオペレーターさんたちの声から職場の問題点を示せたなら、社員は動かざるを得ないわけです。反発を受けたところには課題や改善点をデータで提示しようと考えました。

当時、オペレーターさんは400人くらい。グループ分けをして部下と一緒に1年をかけてほぼ全員の面談を終えました。当時の上司が「任せるからやれ」と、信頼してやらせてくれたんです。同時に「自分が『やれ』と指示したことだから、皆も協力せよ」と周囲にも伝えて、改革を進めやすい環境にしてくださいました。それがないと、「やるべきことをやる」のもさすがにちょっときついですよね。

確かに大変でしたが、面談したオペレーターさんたちが「コールセンターをガチでやってきた経験がある人がやっときた」「初めて話が通じる人に話をできた」とおっしゃってくださったのが支えになりました。

「元気が出て頑張れる」職場に 有期雇用者の無期化を実現

入電の予測精度を高めたことなどで、電話応答率や顧客の満足度は1年ほどで劇的に改善した。「結局、数字を出すのが一番早い」。同時にサービス品質向上と表裏一体となるオペレーターの定着率向上に向け、有期雇用だったオペレーターが経験を積めば無期雇用に転換できる新しい人事制度の導入を実現した。改正労働契約法により、「無期転換ルール(雇用が5年を超えると無期限に転換する)」が適用されるようになった18年4月より前の、15年4月のことだ。何度も人事部に足を運び、雇用形態の変更という難事をやり遂げた。

会社としても、「無期転換ルール」にいずれ対応しなければならないとの認識はありました。オペレーターさんたちの無期雇用化については、もともと上司が「そうしたいと思っている」と言っていて、アイデア自体はあったんです。ただ、どうもうまくいかなかったようで……。私なりのアプローチをしてみました、というところです。

オペレーターさんたちは有期雇用だったので、どんなに経験を積んでも昇進・昇格の道がなかった。本当は管理できるスキルがある人がいても管理職になる道もない。一方、職場の管理で配属される社員側にとっても、「部下」となる相手は雇用形態が違うとあって「言うことを聞いてくれない」だとか、「こういう仕事をするために保険会社に入った訳じゃない」とか不満がくすぶっていました。だから、そのミスマッチを解消すればいいんじゃないかと考えました。

そうすれば、電話をとるオペレーターさんたちにとっては、社員になって管理職にもなれるという道が開ける。そうなれば、きっと元気が出てがんばれると。一方、「ここの管理はやりたくない」という社員には社内との窓口になってもらうなど、違う役割を与えていけばいいと考えたのです。だから説得できたのだと思います。

確かに簡単なことではなかったです。けれど、「コンタクトセンターを効率的に品質高く運営するには、これが最適解なのです」ときちんと伝えていくと、人事もだんだん話を聞いてくれるようになって。(無期化を実現できたことは)本当に良かったと思います。そのときに社員になった方々はいま、がんばって管理職をやってくれています。今もメールを下さることがあって。去年、役員になったときも、お祝いメールをくださって。「あ、覚えてくれている」とうれしかったです。

前例なければ プレッシャーなくトライできる

22年4月、佐久間さんは執行役員としての担当変更で、その思い出深いコンタクトセンター企画部の部長に就任する。同時に、「新しい会社を立ち上げたのは、やっぱり気持ち良かった」と感慨深く振り返る三井ダイレクトの非常勤取締役ともなる。若き日に心に刻んだ「やるべきことをやる」を全うしようと努めながら自身も成長させてきた佐久間さん。後進の女性たちには、こんなエールを送る。

産業界全体を見渡すと、女性はかつて補佐役など性別で職域が限定されがちだったせいか、「やったことがないこと」に拒絶反応を示す方が少なくないような印象があります。さはさりながら、前例がないのは、まだ誰もやっていないということ。いいも悪いもないわけです。

だから、好きなようにやりたいようにできる魅力があります。ご自身に新しいことでオファーがあった場合はぜひ、怖がらずにチャレンジしてみてください。前任者が非常に優秀な人だったら、その方がプレッシャーじゃないですか。そうしたプレッシャーもなく挑戦できる訳ですから。ぜひ、トライしてほしいですね。

目の前の「やるべきこと」が難しい課題であっても佐久間さんは目をそらさずに取り組み続けてきた。21年に役員に登用されたことはどう受け止めたのだろうか。

やってきたことを認めていただけたのかもしれませんが、それ以上に「この先も期待されているのだ」と受け止めました。今まで一緒に仕事をしてきた人たちが喜んでくださったのが、うれしかったです。「後ろに続いてくれる女性が出てきたらいいな」と思っています。

デジタル技術を活用したサービスが広がったことで、今後は保険に関してもお客様に思いもかけない影響が出てくるようなことがあるかもしれません。いわゆる「保険の商品」として、きちんと商品設計ができていればいいという時代ではなくなったように思っています。ますます、役割・難易度を高度化して、職務に取り組んでいきたいと思います。

(佐々木玲子)