「最低30分のウオーキング」を
全体は10章構成。冒頭の1章では、人間の脳は1万2千年前からほとんど変わっていないこと、狩猟採集生活を送るのに最適化されていること、このため動くことに敏感に反応し、アップグレードされたり、老化を抑制したりすることが明らかにされる。60歳の被験者約100人の脳を調べた研究や脳が柔軟で変形するものであることを示す事例など、具体的な科学研究のエピソードをふんだんに交えながら脳と運動の関係が解き明かしていくのが本書の読みどころだ。
2章はストレス、3章は集中力、4章はうつとモチベーション、5章は記憶力、6章は創造性、7章は学力、8章は加齢との関係という具合に、興味深いテーマごとに脳の働きと運動の関係を語っていく。9章ではなぜ運動が脳に恩恵をもたらすかを脳の歴史から探る。最後の10章では、「どんな運動をどれくらいすればよいか」を簡単にまとめて締めくくっている。
「最低30分のウオーキングをしようというのが本書の結論。簡単すぎる話と思えるのに、多くの人が買っていく。コロナ禍で出歩くことが減ったビジネスパーソンに、運動脳というタイトルが刺さったのかも」と、店長の桐生稔也さんは話す。ハンセン氏の著作は『スマホ脳』刊行から2年で『最強脳』『ストレス脳』(ともに新潮新書)と立て続けに出ており、「脳のトリセツ」人気は衰えない印象だ。
稲盛和夫氏の人生哲学が3位に
それでは先週のランキングを見ていこう。
(1)異端のイノベーション | 木下淳之著(幻冬舎) |
(2)読むだけで人生が変わる「すぐやる」思考術 | 河原哲史著(白夜書房) |
(3)生き方 | 稲盛和夫著(サンマーク出版) |
(4)運動脳 | アンデシュ・ハンセン著(サンマーク出版) |
(5)エネルギー産業の2050年 | 竹内純子編著(日本経済新聞出版) |
(紀伊国屋書店大手町ビル店、2022年10月24~30日)
1位は、ステンレスをカラフルに発色させる技術で企業変革を進めた軌跡を地方の中小企業経営者自身が語った本。なかなか一歩が踏み出せない人に向けて「すぐやる思考術」の実践方法を伝授するキャリアコンサルタントの本が2位に入った。3位は先ごろ亡くなった稲盛和夫氏が人生哲学を語った本。04年刊と10年以上昔の本だが、死去をうけて改めて売れているようだ。今回紹介した『運動脳』は4位に入った。5位は2050年のエネルギーのあり方を予測した本だった。
(水柿武志)