
社会によりよい変化(インパクト)をもたらす企業活動に投資する「インパクト投資」が世界的な広がりを見せ、こうした活動を担うスタートアップの活躍が目立っています。環境問題や貧困問題への関心の高まりが背景にありますが、デジタル技術やバイオ技術など新技術を社会課題解決のため実装することで、高い投資リターンを追求しているのが特徴です。
グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)によると、インパクト投資の運用残高は2019年末で推定7150億ドル(約80兆円)。前年から4割増えました。国内の投資残高も19年度で5126億円と前年度より約6割増加しています(GSG国内諮問委員会調べ)。
ゴールドマン・サックス証券出身のキャシー・松井氏らが設立したベンチャーキャピタル(VC)ファンド「MPower Partners Fund(エムパワー・パートナーズ・ファンド)」もインパクト投資を手掛けます。今年出資した米社は、気候変動リスクを算定するソフトウエアを開発しています。
インパクト投資を目的としたファンドの立ち上げが相次いでいます。VCのリアルテックホールディングス(HD、東京・墨田)は、100億円規模のファンド運用を始めていますが、主な出資対象は社会課題の解決を目指すスタートアップです。
インドや東南アジアの国々は、外国からのインパクト投資呼び込みに積極的です。インド南部ベンガルールにあるステラップス社は、IT(情報技術)で酪農家の経営を支援する会社で、貧困問題の解消に貢献するスタートアップとして知られています。
乳牛に付けたIT機器で健康状態を把握するほか、搾った牛乳の成分も管理します。流通ルートでの廃棄ロス減少にもつながるということで、酪農家の収益を高めることに成功しました。同社には米ビル&メリンダ・ゲイツ財団や、日本のVCも投資しています。
日本国内でも、化石燃料に替わるミドリムシ由来のバイオジェット燃料を開発したユーグレナなど、社会にインパクトを与える企業の活動が目立ち始めています。人工知能(AI)技術を使った水の循環利用システムを手がける東京大学発スタートアップのWOTA(東京・豊島、ウォータ)や、捨てられる食品(フードロス)をアプリを活用して削減するスタートアップなどもその例です。
こうした国内外の社会課題解決を見据えるスタートアップなどの多くは、デジタル技術などハイテクを意欲的に導入しています。インパクト投資は社会へのインパクトとともに高い投資リターンを求める傾向があるといわれます。こうしたリターンの源泉になるのは、ビジネス感覚に富んだイノベーティブな企業行動にあるといえそうです。