
職人のひたむきな姿勢ひしひしと
「若い衆をかわいがれ」という、ことさんの教えを受け継ぐ玉寿司では、若手すし職人の育成のため「玉寿司大学」を6年前から開校。すしの握り方など「技術力」と「接客力」「人間力」をそれぞれ教育のプロから学ぶ場を設けている。毎年10人前後が入門し、約5カ月間、ノウハウの習得に励んでいる。

「鮨 本店上ル」はそんな若手が実践で学ぶ場としての役割も果たす。カウンター内ではすし職人歴27年というベテラン店長の下、キャリアが浅い若手スタッフがサポートで入り、客と向き合う。男性のすし職人がいずれもスキンヘッドである理由を聞くと、「髪の毛が落ちないよう衛生面での配慮からです」(中野里社長)。すし職人たちのひたむきな姿勢がひしひしと伝わってくる。
「鮨 本店上ル」の営業時間帯は夜(午後5時から)のみで、2種類のおまかせコースの中から選ぶ。「極み」コースはお造りや茶わん蒸しや握りなど全16品ほど(税込み1万6500円)、「口福(こうふく)」コースは全13品ほど(同1万4300円)。5500円(税込み)プラスすれば「限定ペアリング」で、乾杯用のスパークリングかビールと日本酒3種プラスワインなどお好みのドリンク2種が付き、料理に合わせたペアリングが楽しめる。

生前のことさんについて、中野里社長は「いつもユーモアある丁寧な接客を心がけていたが、商売には厳しく、板前たちには食材を無駄にすることがないよう常に指導し、『もったいない』が口癖だった」と振り返る。その精神を受け継ぎ、のどぐろの「あら汁」や、マグロの皮の「煮こごり」、魚の骨を使った「骨せんべい」など通常使われない部位を用い、おいしく仕立てた「つまみ」も今後、提供していく考えという。
目の前に並ぶ厳選された素材に一手間加えた一品料理や、赤酢のシャリと一緒になったにぎり――自然と手が伸び、いつしか杯を重ねている自分に気づくことだろう。
(堀威彦)