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リスクの上昇が大きいのは「酒の通り道」

一口にがんといっても、肺がん、胃がん、肝臓がんなど、さまざまな部位のがんがある。飲酒により影響を受けやすい部位と、受けにくい部位があるということは素人でも想像できる。果たしてどの部位のがんのリスクが高くなるのだろうか。

「最もリスクが高かったのは『食道がん』で、そのリスクは1.45倍になりました(10drink-yearの場合)。また、『口唇、口腔及び咽頭がん』も1.10倍という結果が出ています(咽頭は口腔と食道の間にある器官)。飲酒によってがんのリスクが上がるのは、食道より上部の器官、つまり『お酒の通り道』になるところだと昔から言われていますが、今回の結果でもその傾向が見られました」(財津さん)

なお、気管と咽頭をつなぐ器官である「喉頭」のリスクも1.22倍と高い。

各部位のがんの罹患リスク(10drink-yearの場合)

縦軸は、飲酒をしない人と比較したがんにかかるリスク(オッズ比)。1日アルコール1単位(日本酒1合相当)の飲酒を10年間続けた時点(10drink-year)でのリスク

これらのリスクはいずれも、1日当たり日本酒1合(純アルコール23g)相当の飲酒を10年間続けた時点(10drink-year)におけるデータである。飲酒期間がより長くなり、飲酒量が多くなれば、ほとんどの部位でがんのリスクは着実に上昇する。最も顕著な食道がんの場合は、1日1合の飲酒を10年間(10drink-year)で1.45倍だったリスクが、1日2合で30年間(60drink-year)なら4倍を超える。

酒を口から飲んで胃に至るまでのルートのほかには、胃がん(1.06倍)、大腸がん(1.08倍)なども、がん全体と比べてリスクが若干高くなっている。女性の私としては、乳がんのリスクが1.08倍であるのも気になるところだ。このほか、子宮頸がん(1.12倍)、前立腺がん(1.07倍)などもリスクは高めとなっている。

「酒の総量」が問題であって「種類」はあまり関係ない

少量の飲酒であっても、がんの罹患リスクが上がることが明らかなのは分かった。だがせめて、がんのリスクができるだけ上がらないような酒の飲み方はないのだろうか。

「最も着目すべきポイントは『お酒の総量』。お酒の種類はあまり関係ありません[注3]。アルコールそのものに発がん性があり、さらにアルコールの代謝副産物であるアセトアルデヒドもがんの原因となることが分かっています。私たち日本人は遺伝的にアセトアルデヒドの分解能力が低い人が一定数おり、少量でも影響を受けやすいのです。このことから、飲み始めた年数から今に至るまでどれだけアルコールを飲み、そのリスクにどれだけさらされてきたかが重要となるのです」(財津さん)

財津さんによると「お酒を飲む習慣を見直してほしい」という。確かに、酒好きの多くは、さして飲みたくもないのに、飲むことが「クセ」になっている人が多い。夕方になったら当たり前のようにカシュッとビールのプルトップを開ける、風呂あがりに水代わりにチューハイを飲む、仕事帰りにコンビニに寄って酒を買ってしまう……。

「まずはこうした『飲むクセ』を変えていくといいですね。最初は週に1日でいいので、休肝日を作ってみましょう。お酒をストレス発散の道具にしたり、睡眠導入剤の代わりに寝酒にしたりするのも避けましょう」(財津さん)

財津さんは、「一生で飲むお酒の量は決まっている」と考えて、休肝日で「飲まない日貯金」をして、「飲酒寿命」を延ばしましょう、と提案する。これには私も賛成だ。

[注3]ただし、ウイスキーなどアルコール度数の高い酒は、食道がんなどのリスクをより高める傾向があるともいわれている

名医が教える飲酒の科学

著者 : 葉石かおり
出版 : 日経BP
価格 : 1,650円(税込み)

葉石かおりさん
酒ジャーナリスト/エッセイスト。1966年東京都練馬区生まれ。日本大学文理学部独文学科卒業。ラジオリポーター、女性週刊誌の記者を経てエッセイスト・酒ジャーナリストに。「酒と健康」「酒と料理のペアリング」を核に執筆・講演活動を行う。2015年に一般社団法人ジャパン・サケ・アソシエーションを設立。国内外で日本酒の伝道師SAKE EXPERTを育成する。著書に『酒好き医師が教える最高の飲み方』『日本酒のおいしさのヒミツがよくわかる本』ほか多数。

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