「敷居の低い本気のフグ屋」 築地の立ち飲み酒場

2021年11月にオープンした立ち飲みフグ料理店「築地長屋6-7-7」。夏の間も地元住人や築地で働く人々のオアシスとなった

フグ料理店は夏に消費が落ち込むため、7~8月は長期で店を閉める店も珍しくない中、東京・築地に2021年11月オープンした立ち飲みふぐ酒場「築地長屋6-7-7」が健闘している。フグといえば、てっさに唐揚げ、鍋、雑炊のコースが一般的だが、同店はてっさは押さえつつも、つまみは自由。フグ+アルファを巧みに組み合わせ、「夏に弱いフグ」という定説を覆す勢いを見せる。築地場内の豊洲移転に続いて、新型コロナウイルス禍で海外からの観光客も激減し、このところ静かだった東京・築地に、再び人が戻ってきそうな明るい兆しも感じさせる。

築地4丁目交差点から晴海通りを勝どき方面に進み、築地場外が途切れたら、左手のブロックを目指す。店に近づくと、ビルの谷間にぽっかりと戦前の姿をとどめた長屋の一角が見えてくる。建物は古いが手入れが行き届いているので、さびれた場末観はない。

ビルの谷間にぽっかりと戦前の長屋が残る

営業は午後5時から。開店とほぼ同時に入店すると、すでに先客がいた。日によっては、午後4時に開けることもあるらしい。10人も入ればいっぱいになりそうな空間は、中心に鉤状(こうじょう)のカウンターがあり、あとは窓際に沿って細いカウンターが作られているので、どこに陣取っても、外の空気を近くに感じながら飲める。換気は万全だが、立つ位置によって、蚊取り線香の香りが直撃するので、気になる人は注意して場所取りをしたほうがいいかもしれない。

まずはビールを。生は大と小の2サイズ。瓶の「ハートランド」(660円)があったので、こちらで始めることにした。さっそくお目当ての「てっさ」(1200円)をオーダーする。フグ料理店では営業前に刺し身に引き、すぐ出せるようにスタンバイされているので、1品目に頼むにはちょうどいい。

フグは佐賀県や熊本県天草市の養殖ものを使用。大きいものは5~6日ほど寝かせてから刺し身に引く

ここでも待つことなく登場した。山口県で栽培されているフグ専用の安岡ネギと刻んだ青ネギ、もみじおろしにスダチが添えられている。てっさは、皿が透けて見えるが薄すぎず、量も一人前にちょうどいい。大勢で囲むと遠慮の塊になって、なかなか箸を伸ばせない人も、このスタイルなら心置きなく自分のペースで独り占めできる。次のつまみをゆっくり考えながらつまむのにも、ちょうどいい。

お品書きを見ると「ふぐメニュー」には、ほかにも8種ほどのつまみが並んでいた。鍋代わりに温かいフグの身を楽しめそうな「ふぐの酒蒸し」(1000円)や、ふぐ皮を使った「絶品 とおとうみ炒め」(1000円)も気になる。そのすぐ隣には「ベトナム人の料理」という欄が続く。

フグと和のつまみだけでも成立しそうなのに、ベトナム料理とは唐突だ。4種類と数は少ないが、存在がどうしても気になり、何か1品頼まずにはいられなくなる。「ベトナム風焼きブタ」(430円)や米粉の麺料理の「ブン」もあり迷ったが、隣のカウンターに生ハム色をしたピンク色の春巻きを見つけ、つられて「本気の生春巻き」(650円)を頼む。

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フグ料理ばかりじゃない、なぜかベトナムグルメも