石川県加賀名物、真子のピザが日本酒に合う!

「絶品 とおとうみの炒めもの」(1000円)は量もたっぷり。皮好きには垂涎の一品

フグ以外のつまみも粒ぞろいだが、肝心のフグ系のつまみをもう少し紹介したい。細切りでてっさに少量添えられることの多いフグ皮の「とおとうみ」は、ビールに合うピリカラの炒め物になってたっぷり出てくる。コラーゲンの豊富な部位なので、肌を内側から変えたい人にお薦めだ。

石川県の加賀名物、「真子」を使ったピザもある。真子はフグの卵巣を1年塩漬けした後、2年ほどぬか漬けにした珍味で、毒性検査をしてから出荷される。小さなオレンジ色の点々に、うま味と塩気が詰まっていて、日本酒によく合う。こうしたフグの伝統食品も次の世代に知ってほしいと、宮脇さんは意識的にメニューに取り入れている。

「一番人気 真子ピザ」(800円)は、チーズと真子の塩気がお燗(かん)にも合いそうだ

ところでユニークな店名はどうやって決まったのだろう。

「アンケートをとったんです。店の前の掲示板に『立ち飲みをしようと思っていますが、名前が決まっていません。募集しています』と。新参者の僕が近所の人と接点を持つには、これが最短距離なんじゃないか、と戦略的に考えたわけではなく、ただ面白いかなと思って」

しかし、最初はネガティブな書き込みを心配して、ペンを置けなかったそう。ところが、近くのとんかつ屋さんが気を回して、洗濯ばさみで掲示板にペンをとめてくれたところから、ご近所さんが寄せ書きのように次々と書き込みを始め、宮脇さんも書き込みに返事を返すという双方向のやりとりが始まった。

「そのなかに『築地長屋6-7-8』とあって、矢印を引いて『この名前なら来るよ』と書いてあったんです。ちょっと反論したくなって、そのコメントに今度は僕が矢印を引っぱって、『どんな名前でも来てください』と書いたんです。次の日、また矢印が引いてあって『コレでも来るよ』と別の名前が書いてあって。その一連のやりとりが、この店でお客さんと築いていきたい関係性そのものだなと思って決めました。番地が違っていたので、数字は直しましたけど」

「居心地の良さこそ、仕事帰りの人が求めているもの」と宮脇さん。立って飲んでも、この店ではなぜか疲れない

もう1つ、この掲示板で胸に刺さる出来事があった。

「ある日A4の紙が貼られていて、こう書いてあったんです。『店の名前とは名刺と一緒です。自分の店の名前も決められないならば、うまく行くはずがありません。もし今から借り入れを予定されているなら、早急にやめたほうがいい』と」

一瞬へこみそうになったが、考えてみれば、まったく知らない他人を心配してわざわざ紙に書いてまで忠告してくれる人はそういない。SNS(交流サイト)全盛の今となっては、余計に胸が熱くなるエピソードだ。

客単価は4000円前後。30分~1時間でサクッと帰る人もいるが、「2時間はふつうです」と宮脇さん。それだけ居心地がいいのだ。ここでビールと一品を軽くつまんだ後、隣の別邸に流れるという粋な客もいた。そんな大人の使い方も、いつかしてみたいものだ。

(ライター 伊東由美子)

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