フグ料理ばかりじゃない、なぜかベトナムグルメも

やってきたのは、黄色の皮に包まれた生春巻き。フレッシュで皮はもっちり。サラダ感覚で楽しめるが、ニョクマムのたれをつけるとビールによく合う。お品書きにはほかにも「呑んべえの心くすぐる逸品」の欄があり、「シュウマイ」(450円)、「山形 だし豆腐」(450円)、「真夏でもおでん四種盛り?」(680円)、「豚の角煮」(770円)と手ごろなつまみが20品近く並ぶ。「〆(締め)」には「実家のカレーライス(想像の)」(770円)や「塩お結び(真子・お漬物)」(400円)もあり、フグを抜いたとしても十分楽しめそうだ。
この店を開いた宮脇崇さんは、大阪の会員制の店からフグの世界に入り、東京で2軒の立ち上げを任されたあと、独立。「日本で一番敷居の低い本気のふぐ屋」を目指して、東京・東銀座に19年12月「ふぐ倶楽部miyawaki」を開業した。コースが9900円、単品での利用も可能で、白子とひれ酒だけ食べに来る老夫婦や、焼きふぐだけ食べて、バーへ移動するはしご客がいたりと、これまでのふぐ料理店からは考えられない使い方もできる。

立ち飲みは3軒目に当たり、同じ長屋の隣には「ふぐ倶楽部miyawaki別邸」が2軒目として21年10月にオープンしている。別邸はコースが16500円。3軒の中では一番高額だが、フグのコース料理としては良心的な価格設定だ。
「独立1年目からコロナ(禍)でしたが、お客さんが入らないのをコロナのせいにして舵(かじ)を切ったことはないんです。通常営業ができない時期は、じゃあ何をやれば今はベストなのかと考えて東銀座で試したのが立ち飲み営業で、やってみたら、自分が面白くなった。フグを絡めなくてもいいから立ち飲み屋もやりたいなと思ったことが、この店につながっています」と宮脇さん。
ちなみに、1927年(昭和2年)に建てられた長屋の家賃は60万円。手を出せる飲食店経営者はこの時期、なかなか現れなかったのだろう。宮脇さんも長屋の前に毎日1時間立ち、3週間考えた。
「1軒では固定費が高すぎる。でも、一気に2軒出せば、家賃が分割できて固定費の問題は解消できると思って、1軒を立ち飲みにすることにしました。というかこの物件を毎日見ていたら、もう立ち飲みしかないと思って(笑)」

こうして、同じ長屋に別邸としてコースのみのフグ料理店をつくり、食べやすい部位は別邸へ、食べにくい部位を立ち飲みへ、そのほかの部位は、間の価格帯の東銀座の店に振り分け、フグの各部位を適材適所で提供できるようにもした。
「3店舗でワンパッケージの店として考えても面白いなと思ったんです。価格帯の違う3業態ができたことで、それぞれの満足度がさらに上がったような気がします」
ちなみにベトナム料理を置いたのは、厨房にベトナム人スタッフがいるから。ほかの店にはない、自分たちらしさを出す意味もあったが、フグの調理技術を覚えたベトナム人スタッフが将来、自国に帰って店を開く時、ベトナム料理にフグを絡めた営業をやったらどうなるか……というシミュレーションも一部兼ねているそうだ。