幸之助の言葉に勇気づけられる

――お手本となる経営者は誰でしょうか。

「パナソニック創業者の松下幸之助さんの言葉はおりに触れ、かみ締めています。有名な水道哲学を自分なりに解釈すると、インフラとしてのテクノロジーの整備を目指したものなのでしょう。より美しい物、良い物を作り出そうという意識がテクノロジーを向上させていくと思います。一番好きな言葉は『伝統工芸は日本のものづくりの原点』で、大きく力づけられます。松下氏は自身が大切にされてきた『素直な心』を育てる道が茶道にあると思い、茶道具に触れるうちに関心が伝統工芸に向かっていったそうです。松下氏の言葉から伝統工芸に工業のテクノロジーを忍ばせることを自分のミッションのひとつにしています」

「海外では米アップルのスティーブ・ジョブズ氏のエピソードが忘れられません。iPhone本来の機能とは全く関係ないのに、四隅のカーブなどのデザインに徹底的にこだわりました。ジョブズ氏の妥協しない美意識が先端的な大イノベーションをもたらしたのです」

――現在活躍中の経営者では誰かいますか。

「イタリアのファッションブランド創業者であるブルネロ・クチネリ氏です。1978年に創業し1代で世界的企業へと発展させました。ジャケット1着でも数十万はかかります。その値付けは社で働く職人、社員を重視していることから来ています。利益を社員らに十分に還元することで職人の養成、技術の伝承に役立てています」

――今は何を計画していますか

西陣織を使った外壁素材。22年オープンの「東京ミッドタウン八重洲」でエントランスを飾る計画だ

「2022年にJR東京駅に接するような形で『東京ミッドタウン八重洲』がオープンします。ポストコロナ時代を見据えた感染対策を導入した地上45階建てのオフィスビルです。エントランス部分に西陣織と繊維強化プラスチックによるアートピースを飾る予定です。かつての江戸・八重洲は当時の先端的な技術を持つ職人らの街でした。私も伝統工芸と先端技術を組み合わせた製品に挑戦し続けていきます」

(聞き手は松本治人)

細尾真孝
 1978年京都市生まれ。大学卒業後は音楽活動、ジュエリーメーカー勤務、伊フィレンツェ留学などを経て2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外向けに展開し20年、社長就任。ポーラ・オルビスホールディングス (HD)外部技術顧問、MITメディアラボ・ディレクターズフェロー、「GO ON」(京都の伝統工芸プロジェクト)代表理事。

日本の美意識で世界初に挑む

著者 : 細尾 真孝
出版 : ダイヤモンド社
価格 : 1,650 円(税込み)

ビジネス書などの書評を紹介