――昨年はトヨタの「レクサスLS」でドアの内側パネルに採用されました。

レクサスLSのドアリム(ドアの内張りパネル)に使用された西陣織

「米ハリウッドのデビッド・リンチ監督とのコラボ展示会がレクサス担当の方の目に留まりました。シルクを車の素材に使うことは耐火性や湿度耐性の点から、通常では到底考えられません。自動車の素材メーカーや箔メーカーと開発段階から協業し立体的に金銀の箔を織り込んで高級感を守りながら量産を実現しました。月の明かりに照らされた海の波のゆらぎをイメージしました。1枚の織物をカットして車内に張り込むので、実は同じレクサスでも、1台ずつで微妙にパターンの出方が違います」

織物で家が作れないか

――固定観念の打破に続く第2の心得として「大胆過ぎるほどの発想がイノベーションを生む」と唱えていますね。

「漫画『ドラゴンボール』に、家やバイクなどをカプセルに収容できる『ホイポイカプセル』と呼ぶアイテムが登場します。これにヒントを得て、織物で家が作れないかと米MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボのディレクターズフェローとして研究しています。モンゴル民族の移動式家屋「ゲル」を美しく織物で構築するイメージです。東大大学院やZOZOテクノロジーズ(現・ZOZO NEXT)などと紫外線で瞬時に硬化する織物も開発しています。大風呂敷を広げるほど他者の共感を呼び、協力者が集まってきてくれるように思います」

「イノベーションの能力は、自分が知らなかったジャンルを経験することで磨かれます。これまでの趣味の延長線ではない、全く別のことに挑戦するのがポイントです。細尾では古代染色や18世紀フランスの養蚕研究、織物図案のアーカイブ化など10のプロジェクトが進行しています。あれもこれも、ではなく世の中へのメッセージ性を持っているかどうかで決めます。おおよそのプロジェクト期間を4年と定めています。ダラダラ続けるのはR&D(研究・開発)ではないと思っています。終われば必ず展示会を開き成果を公表します。さまざまな業界の人々に見てもらうことで、新たなニーズを育てることが可能です」

――第3の心得として美意識を育てよ、と主張しています。

「『美しい、きれいだ』と思う気持ちを磨き、工業から工芸へ復帰することがポイントです。現代は大量生産・大量消費でなければビジネスが成立しにくい時代です。しかしモノがあふれ、市場が成熟した結果、心から欲しいと思える新商品が生まれにくくなっています。生産性の向上を第1とする工業的なアプローチは曲がり角に来ています」

「四季の自然を大切にする日本人の美意識と、ものづくりの原点である工芸がこれからの企業成長に役立つと考えています。美意識は美しいものを使ったり触れたり、学んだりすることで磨かれていきます。美しい物を通して作り手の美意識を感じることができます」

「新型コロナウイルスの感染が収束せず、テレワークが普及しています。新たな生活様式の中で仕事と生活の場が近づきました。仕事に対する向き合い方が、上司に命じられて行う労働ではなく、自分の人生と密接につながった創造的な活動になっていくと思います。より長い時間を過ごす自宅では好きなもの、美しいものに囲まれたいというニーズが大きくなっていくでしょう。細尾でもラグジュアリーブランド向けのB2B商品として提供していた西陣織のクッションなどを2019年から一般の皆さんにも販売しています」

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