コロナ禍で競合から共存へと変化した銀座

「これはもともとオーナーの考えなのですが、バリアフリーが店のコンセプトになっています」(大網総料理長)。ハンディキャップを持つ人が安心して食事をできる場所を提供したいという強い思いが背景にある。

バリアフリーの店内

求めに応じて食材を細かく刻んだり、軟らかくしたり、さらに自由に曲がるスプーンなども用意している。もしものときにスムーズに避難できるよう車椅子のまま階段を下りられる機械まで用意している。「ハード面だけではなく、スタッフのマインドも大切です。腫れ物に触るような態度ではなく、ちょっとしたお手伝いを自然にできるように『教育』をしています。結果として、障がいのある方もそうでない方も、どんな方でも食事を楽しめるお店になっていると思います」と胸を張る。

コロナによって現在はやむを得ず中止となっているが、以前は得意客に声をかけてゴルフのチャリティーコンペを年に2~3回主催していた。池ポチャなどペナルティーのたびに参加者に寄付してもらう仕組みで、年間通じて100万円ほどが集まる。「もちろん、お店の売り上げにするわけではないですよ(笑)。すべて車椅子や障がい者施設への寄付に使います」(大網総料理長)

事故などで脊髄を損傷した人のリハビリセンターで、リハビリに懸命に取り組んだ人を表彰する際の副賞として、朔月で使える5万円分の食事券を提供していたこともあった。「私も毎回発表の場に参加させてもらっていたのですが、歩けないと言われていた人がちょっとでも歩けるようになるのを目の当たりにすると、やっぱりものすごく感動するんです」

大網総料理長

大網総料理長の話を聞くにつれ、料理を通じて社会とつながろうという意思を強く感じた。今夏の東京五輪・パラリンピックでは、スポーツクライミングで銅メダルを獲得した野口啓代選手らを食事面でサポート。期間中毎日、弁当を届けた。「緊急事態宣言中でお店も開いていなかったですし、少しでも貢献できればと思いまして」

銀座らしい粋さを感じる一皿

店のある銀座は、コロナ禍の多大な影響を受けた。一時は銀座のともしびが消えるのではないかという危機感が街全体にただよった。大網総料理長も自身のブログに「休職状態です」と書き込んだこともあった。「コロナ以前は銀座のお店同士は競争関係にありましたが、だんだん仲間意識が生まれてきました。例えばデリバリーなどの情報も交換しながらやっています。競合から共存へと変化してきたのだと思います」。そんな新たな「粋」を獲得した銀座に足を運んでみるのもいいかもしれない。

(グルメクラブ編集長 桜井陽)

記事内での紹介店

和食鉄板 銀座朔月(東京都中央区)
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