西アフリカのライオンを救え GPS首輪で生態を把握

日経ナショナル ジオグラフィック社

ナショナルジオグラフィック日本版

絶滅の危機にある西アフリカのライオンは、これまで群れを形成しないと考えられていた。しかし、ここセネガルのニョコロ=コバ国立公園では、発信器付きの首輪をつけたメスのフローレンスが、群れのメンバーであるほかのメスと一緒に横になっている姿が見られた(Photograph by John Wendle)

アフリカ西海岸の国セネガル。その南東の端にあるニョコロ=コバ国立公園は、1981年にはユネスコの世界遺産に登録された広さ9000平方キロメートルの生物圏保護区だが、その存在はほとんど知られていない。セネガル国立公園局と野生ネコ科動物の保護団体「パンセラ(Panthera)」は、ニョコロ=コバに生息する約30頭のライオンを、地域絶滅の危機から救うために奮闘している。

ニョコロ=コバのライオンは、その獲物となる動物たちが密猟の危機にあるばかりでなく、ライオン自身も密猟の対象となっているのではないかと、自然保護活動家は懸念している。ライオンの毛皮や歯や爪や肉は、主にアフリカとアジアで高値で取引されているからだ。なかでもライオンの骨は、伝統医学において野生のトラの骨の代用品として希少価値が高まっている。

またニョコロ=コバは、密猟や農地の拡大、森林火災の増加により、2007年にはユネスコの「危機にある世界遺産」に登録された。「解決すべき問題はたくさんあります」と公園の責任者であるジャック・ゴミ氏は言う。「私たちの目標は、2024年までに公園をレッドリストから外すことです」

ニョコロ=コバ国立公園の北部で密猟者のキャンプを調査するレンジャーたち。ライオンの獲物であるアンテロープなどの密猟が、ライオンの生存を脅かしている(Photograph by John Wendle)

西アフリカのライオンを守る意味

西アフリカのライオンは、アフリカ南部のライオンに比べて体高が高く、筋肉質で、オスにもたてがみがない。デンマーク、コペンハーゲン大学のローラ・ベルトラ氏は、ライオンのゲノム解析の結果、西アフリカのライオンが、アフリカ南部のサバンナに生息するライオンよりも、インドに生息するライオンに近いことを、オープンアクセスの学術誌「BMC Genomics」に2022年4月22日付で発表した。

ベルトラ氏は、「西アフリカのライオンが新しい亜種であるとか、そういうことではありません。ライオンは以前はアフリカ系とアジア系に分けられていましたが、今回の研究により、北方系と南方系に分けられることがわかったのです」と説明する。そして西アフリカのライオンは北方系に当たる。

また、パンセラのニョコロ=コバのプロジェクト責任者、フィリップ・ヘンシェル氏は、「西アフリカ全体でライオンの成獣は121〜374頭しかいない」と言う。彼がニョコロ=コバで調査を始めた2011年の推定個体数は約12頭で、公園のレンジャーでさえ、ライオンを見たことのある人は1人もいなかったという。

ヘンシェル氏は西アフリカのライオンについて、このままでは小さな集団が次々と絶滅し、アフリカ南部に数頭が残るだけになってしまうだろうと見ている。

西アフリカのライオンは北方系だが、南方系のライオンと繁殖することはできる。しかし、「ニョコロ=コバに南方系のライオンを導入するのは間違いだ」とヘンシェル氏は言う。そんなことをしたら、この地域のライオンの遺伝的独自性が損なわれてしまう。だからこそ、ニョコロ=コバに残っているライオンを救うことが急務なのだ。

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未知の部分が大きいライオン