コンテンツ配信プラットフォーム「note」を展開するnoteは2022年12月21日、東証グロース市場に株式を公開した。IDを保有する会員が585万人超、MAU(月間利用者数)は4000万人に迫るなど、noteの利用者が拡大する中、企業のマーケティングの場としても重要性が高まっている。そこで、CEO(最高経営責任者)の加藤貞顕氏にマーケティングプラットフォームとしてのnoteの強みを直撃。広告サービスの開発意向や、利用者拡大のためのポイント制度導入の検討など、noteの将来性を占う戦略の一端を明かした。

加藤 貞顕 氏
note 代表取締役CEO
1973年、新潟県生まれ。大阪大学大学院修了後、アスキーを経て、ダイヤモンド社に入社。同社で手掛けた書籍『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら(もしドラ)』が大ヒット。2011年、ピースオブケイク(現note)を設立。14年にあらゆる表現者を応援するコンテンツプラットフォーム「note」の提供を開始

――「note」の法人利用が拡大している。その理由や企業の需要は何か。

加藤貞顕氏(以下、加藤) 登録会員数が585万人を超え、MAU(月間利用者数)は4000万人近くになるなど、noteが“人通りが多い町”になってきているのが最大の理由だ。また、単に利用者が増えているだけでなく、創作活動のプラットフォームということもあり、クリエイティブを大切にしている雰囲気は企業からも好まれやすく、マーケティングの場として合っているという評価につながっている。

 それは環境の話だが、仕組み的にも、情報発信のために使い勝手がいい機能をそろえている。noteに開設した自社ページをカスタマイズして、自社で情報を発信するオウンドメディアづくりもしやすい。それらが総合的に評価されている。

 活用する企業規模はキリン、パナソニックといった大企業から、ベンチャー企業までさまざまだ。最近は公的機関の利用が増えている。企業、業態を問わず、情報発信のインフラとして使えるサービスを使命として開発している。

キリンはnoteを活用して、さまざまな情報を発信する
キリンはnoteを活用して、さまざまな情報を発信する

 活用目的もさまざまだ。大企業は自社のパーパスをしっかりと伝えるなど、ブランディングを目的とした活用が中心。一方、スタートアップ企業は採用を目的に活用するケースが多い。企業の持つ理念やミッションをnoteを通じて発信することで、採用候補者に会社の目指す方向性を伝えて“仲間”を増やそうとしている。

 ベンチャー企業は創業者の強い意志の下で設立されていることが多い。ところが、就職情報サイトは大手ECサイトのようにカタログ的に、スペックで比較されがちだ。そこで、noteで経営者が目指す方向を自分の言葉で語ることは、採用活動においても非常に重要になる。これは割と成果につながっているという声をよく聞く。特にネット時代では、会社も「法人」という人格を持ち、それが受け入れられている。その人格の持つ考えに共感するから商品を買う、採用に応募するといったことは企業規模にかかわらず起こっていると考えている。

――「コンテンツマーケティング」という言葉が生まれてから、自社発信の“メディア”をネット上に持とうとする企業が増えた。だが、なかなか継続しない。どこに課題があるのか。

加藤 企業のコンテンツマーケティングが続かない最大の理由は、事業上の位置付けが明確になっておらず、社内から事業貢献度が低いとみなされるからだ。採用に活用するベンチャー企業の取り組みの継続性が高いのは、人材採用という経営の根幹と密接な関係にあるからだろう。実際に採用実績につながるなど、成果を出せば続ける理由になる。そのような出口を設計するのが最も重要だ。

 企業のオウンドメディアも一般的なメディアをつくるのと同様に手順がある。まずは、メディアのコンセプトや対象読者を決める必要がある。経営陣と議論して、オウンドメディアの位置付けを明確化し、正しいKPI(重要業績評価)を定めるべきだろう。

――マーケティングプラットフォームとして「note」を見たときに、強みはどこにあると考えているか。

加藤 いわゆるマスマーケティングの効果が薄れる中、ストーリーを通じて消費者とつながることの重要性が増している。これまでは自社のサイト上にオウンドメディアをつくって運営するという流れがあったが、コンテンツをつくり続ける仕組みが整っていないと更新頻度が下がり、継続的に訪問者を集めることが困難になる。noteは、その大変さを解消するプラットフォームだと自負している。

加藤氏はnoteが持つクリエイター向けのコンテンツ制作の仕組みは、企業のマーケティング活用でも有効だと説明する
加藤氏はnoteが持つクリエイター向けのコンテンツ制作の仕組みは、企業のマーケティング活用でも有効だと説明する

 創業からクリエイターの創作活動に必要な「つくりやすい」「つながれる」「アクションにつなげる」という、3つの仕組みをつくってきた。1つ目の「つくりやすい」は編集機能の利便性など、情報を発信しやすい機能の開発。2つ目は、つくったコンテンツをファンに届けやすくするために読者と「つながれる」仕組みづくり。そして、3つ目が共感を示したり、購入や記事への反応といった何らかのコンバージョンにつなげたりするための「アクションにつなげる」機能の開発だ。

 これらの仕組みは、クリエイターにとどまらず企業が情報発信するうえでも有効だ。情報を発信して、顧客とつながり、何らかのアクションにつなげるというサイクルはマーケティング活動でも実は同じ。その3つがそろった場所を「ネットの本拠地」としてつくることが、クリエイターも企業も必要になっている。これを自社でつくれる開発力があれば、独自で開発する道もある。

 米アップルはその代表例だ。同社のサイトは多様なコンテンツ、IDを軸とした顧客とのつながり、そしてECでの購買やアプリ利用といったアクションの3つを備えたネットの本拠地だ。これからの時代、企業はネットの本拠地を持つことが必須になる。

企業にとって「ネットの本拠地」が必須の時代に

――多くの企業は商品サイトや企業サイトなどを持っている。それらのサイトとアップルのサイトの違いは何か。

加藤 メーカーなどのWebサイトは情報発信はしているが、メインの顧客接点になっているとは言い難い。例えば、実際に商品を利用する顧客とのつながりは小売店が持っていることが多く、購買が発生するのも小売店が中心だ。ネットにあるのはあくまで“看板”だけ。オウンドメディアが看板にとどまっているか、事業の本拠地になっているかが大きな違いだろう。

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