
目安としては鍋の底に小さな泡がつき始めるのが60度。70度を超えると泡の量が増えてきて、ぷつり、ぷつりと浮かんでくる。もっとたくさん泡が浮かんでくるようになったら80度を超えている。火を弱めるようにしよう。
しかし温度をしっかりと維持しながら加熱し続けるのはなかなか難しい。そこで活用したいのが食塩だ。
食塩の主成分は塩化ナトリウム。水に溶けると、ナトリウムイオンができる。このイオンはマグネシウムイオンやカルシウムイオンの働きを邪魔し、豆腐がかたくなるのを抑えてくれるのだ。
ただ食塩を加える量が多すぎると、今度は「す」がたちやすくなる。鍋に入れる水の量に対して0.5~1%程度が適量だと考えられる。実際調理してみると、豆腐にほんのりと塩味がつく。しょうゆやタレを使う量が減り、豆腐自体の風味をより味わえるという利点もある。
逆に鉄やアルミニウムのイオンはマグネシウムやカルシウムのイオンより豆腐をかたくする作用が強いとされている。鍋の材質が影響するので注意しよう。湯豆腐は少し気を付けるだけで仕上がりが変わる。ぜひ試してほしい。
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かつお節のうま味 相性よく

湯豆腐そのものにも豆の甘みや香り、昆布のうま味がある。とはいえ、それだけではやはり味気ない。タレや薬味が果たす役割も大きいだろう。とりわけ定番と考えられるのがかつお節のうま味だ。
かつお節にはうま味成分のイノシン酸が多い。昆布に含まれるうま味成分のグルタミン酸と相性がよい。組み合わせて使えば、うま味が何倍にも増して感じられることが知られている。薬味としてかつお節を用いたり、土佐しょうゆのようなかつお節を使ったタレをかけたりしてみよう。より一層味わい深くなる。
(科学する料理研究家 平松 サリー)
[NIKKEI プラス1 2022年10月29日付]