茨城・ひたちなか市の干し芋 自然な甘みと輝く黄金色
サツマイモを蒸してスライスし、乾燥させた干し芋。全国生産量の約9割を占める茨城県の中でも、ひたちなか市が最大産地だ。
ひたちなか海浜鉄道湊線の那珂湊駅に近い「ほしいも専門店 大丸屋」。巨大な干し芋型オブジェを目にして店内に入ると「玉豊」「紅はるか」「シルクスイート」など多彩な干し芋が並ぶ。細長く切った平干し、丸い形の丸干しなど形状も様々だ。
明治期に創業後、干し芋を周辺農家から仕入れていた。今は県内の農場で自ら栽培したサツマイモを秋に収穫し貯蔵。蒸して皮をむきスライスした後、冬場に太陽と寒風のもとで天日干しし、甘さを増した干し芋を出荷している。「明治からの環境にこだわっている」と同店を運営するマルダイフレッシュフーズの大曽根利幸社長は話す。
干し芋は無添加で食物繊維やビタミンが豊富だ。従来は玉豊という品種が主力だったが、2010年にネットリして柔らかい紅はるかが品種登録されてから利用範囲が広がった。
「品質の大部分が決まる土壌管理に力を入れている。2段階の温度で蒸すことで甘さと柔らかさも出している」と話すのはクロサワファームの黒沢武史社長。17年に法人化し、9ヘクタール近い畑でサツマイモを生産している。乾燥工程は天日干しから冷風乾燥機に切り替えた。
19年と20年の干し芋品評会では玉豊と希少品種の部門で金賞に輝いた。販路の9割は東京圏などの百貨店やスーパー。「県内では農家と競合してしまうので県外、特に知名度が低い関西で普及させたい」と黒沢社長は話す。
多彩な品ぞろえで女性や若者にアピールするのが幸田商店だ。20年には干し芋を細く切って食べやすくし、国営ひたち海浜公園のネモフィラやコキアを包装紙にあしらった「ポティ~モ」を発売。干し芋パウダーをまぶした芋けんぴを6月に商品化するなど関連商品にも力を注ぐ。
干し芋を使ったスイーツ作りも活発だ。干し芋やリンゴを使ったあんをパイで包んだ菓子「ほっしぃ~も」は茨城で人気の土産商品。トーストで軽く焼くとパイ生地のサクサク感が戻り、よりおいしく食べられるという。
健康志向の高まりや若者の間でも人気が上昇し、干し芋や焼き芋の需要は増えている。生産現場では原料の確保や価格高騰といった課題への対応も求められる。庶民的な黄金食のスイーツの輝きはこれまで以上に増しそうだ。
干し芋生産は静岡県御前崎地区で江戸期に始まったとされる。明治期の1908年ごろに那珂湊地区(現ひたちなか市)へ伝わり、土壌の水はけや冬の乾燥した気候が適することから生産が広がった。隣接する東海村の生産量も多い。
2019年にはひたちなか市の堀出神社の末社として黄金色の鳥居が並ぶ「ほしいも神社」が創建された。御利益は「欲しいもんが手に入る」。今年10月中旬にも、ひたちなか海浜鉄道(ひたちなか市)で観光列車「ほしいもトレイン」の運行が始まる。
(水戸支局長 竹蓋幸広)
=おわり
[日本経済新聞夕刊 2021年9月30日付]
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