鉄摂取不足だけじゃない 貧血のタイプ・原因は様々
貧血というと、鉄の摂取不足を思い浮かべる人が多い。しかし原因はそればかりではない。性別や年齢により目立つタイプも異なる。若い男性や中高年ではがんなどの病気が隠れている例もあるので気をつけたい。
貧血は赤血球の中にあって酸素を体中に運ぶ「ヘモグロビン」の濃度が低下している状態をいう。血液1デシリットルあたりでみると、男性では13グラム未満、女性が12グラム未満、80歳以上の場合は11グラム未満が目安とされる。全身の細胞で酸素が不足し、だるさや疲労感、息切れ、動悸(どうき)、肌あれなど様々な症状が現れる。
原因として一般によく知られているのが鉄不足だろう。鉄はヘモグロビンをつくるのに必要で、体内に一定量貯蔵されているが、何らかの理由で減ると貧血が起こる。
理由としてまず考えられるのが摂取不足。貧血外来を置く芦屋駅前小野内科クリニック(兵庫県芦屋市)の小野祐一郎院長は「特に若い女性には過度なダイエットや厳格な菜食をする人がいて、鉄やタンパク質などの必要な栄養が不足しやすい。独居で食が細く、メニューが偏りがちな高齢者も注意が必要だ」と警鐘を鳴らす。
女性の場合、月経も影響する。東北大学大学院医学系研究科の張替秀郎教授(血液内科)は「大量の出血を伴う過多月経の女性は少なくなく、毎月繰り返されると鉄が足りなくなる」と説明する。鉄の補給はもちろん、過多月経やその背景にあるかもしれない子宮筋腫や子宮腺筋症の治療が大事になる。
他にも関節リウマチなど慢性の炎症がある場合、炎症物質が鉄の吸収や利用を妨げ、貧血につながる例がある。
一般に女性と比べると成人男性の貧血は少ない。一方で「もし貧血の症状がみられれば、出血を伴う消化器のがんや潰瘍など重い疾患が隠れている可能性がある」。国立病院機構大阪医療センター(大阪市)血液内科の柴山浩彦科長はこう指摘する。
小野院長は「月経のある女性でも、貧血に加えて青あざや発熱などがあった場合、急性白血病などの病気の可能性があるので注意してほしい」と付け加える。
男女とも年齢を重ねていけば、貧血の原因になるがんを発症する確率は高くなる。消化器がんだけでなく、血液の元となる骨髄の細胞の異常で正常な血液がつくれなくなる「骨髄異形成症候群」など血液疾患も増えてくる。張替教授は「こうした病気を見逃さないためにも、時間の経過とともに貧血の有無や度合いがどう変わったかわかるよう検査を定期的に受けてほしい」と助言する。
高血圧や糖尿病などの生活習慣病によって腎機能が低下する人もいる。柴山科長は「腎臓は赤血球をつくるのを促すホルモンを分泌している。腎機能が落ちると、そのホルモンが減って腎性貧血を引き起こす」と解説する。
薬の影響も見逃せない。例えば脳や循環器の病気の治療で血液をサラサラにする抗凝固薬や抗血栓薬などを服用する人は出血しやすい。張替教授は「便の色が黒いときは消化器からの出血の可能性がある。より精緻な検査を受けるようにしたい」と勧める。
がんや血液の病気などが原因の場合とは違い、栄養障害が原因であれば食習慣によってある程度は改善する。張替教授は「鉄を豊富に含む肉や魚などをとるようにし、鉄の吸収をよくするビタミンCが豊富な食材を一緒にとるといい」と促す。
高齢になってくると、そもそもヘモグロビン濃度が下がりやすい。貧血の原因もひとつではなくなってくる。生活の質を保つためにも、たかが貧血と侮ることなく、対策を取るようにしよう。
(ライター 武田 京子)
[NIKKEI プラス1 2021年11月27日付]
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