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社会心理に根差した行動経済学をコロナ下の社会にどう適用するかが課題となっている

社会心理に根差した行動経済学をコロナ下の社会にどう適用するかが課題となっている

一説によると人は大小合わせて1日に3万5000件もの判断を迫られるという。都度、免れ得ないのが「心のゆがみ」の影響だ。人が時に下す非合理な判断を研究テーマに据える行動経済学は、3人のノーベル経済学賞受賞者を輩出。伝統的経済学に対峙する存在感を高めてきた。新型コロナウイルス禍で社会・経済が変容を迫られる時代の道しるべとなり得るのか――。一般の関心は引き続き高いが、理論を基にした政策展開の場では試行錯誤が続いている。

『サクッとわかるビジネス教養 行動経済学』(阿部誠監修、新星出版社)は2021年3月の発売以来、8刷約7万5000部を数える。「『なぜ財布のひもを緩めてしまうのか』など、コロナ禍でお金の使い方を自省する人が増えている」と、実利を前面に出した。読めば今年の日本が行動経済学の理論の格好のショーケースに感じられる。

東京五輪開催の背後に見え隠れするのが「サンクコスト(埋没費用)効果」。「多額の資金を投入したんだから」と引くに引けなくなる事業は多い。コロナ禍中に「曲がりなりにも収束した」と発言する政治家は「楽観バイアス」のとりこであり、自分に都合のいい情報ばかりを収集する「確証バイアス」も働きがちだ。豊富なイラストが親しみやすさを醸す入門書だが、内容は東大教授の監修だけに本格的(「ハロー(後光)効果」?)。

中でも実際に公共政策に取り入れられているのが「ナッジ理論」だ。「ひじで軽くつつく」という意味の英語だが、選択の余地を残しながらも社会的に望ましい方向に誘導する手法として広く実践採用されてきた。ハーバード大学のキャス・サンスティーン教授の『ナッジで、人を動かす』(20年9月、NTT出版)など、その理論を公共政策や社会問題の解決に生かす方法論を説く書籍が相次ぎ、今や経済書の一大ジャンルをなしている。

日本でも大竹文雄・大阪大学特任教授が政府の新型コロナ対策の分科会メンバーとなるなど行動経済学の知見は生かされている。例えば「帰省は控えて」といった「損失」をイメージさせる禁止表現よりも、「利得」を感じやすい「オンラインで帰省を」といった表現で発信する工夫だ。一定の評価はできるが大竹教授は「政府が十分検討して統一的にメッセージを出したり、事前検証したりして発信する仕組みがない」と改善点を挙げる。コロナ第6波の到来と共に真価が問われる。

(マネー・エディター 山本由里)

[日本経済新聞2021年9月25日付]

サクッとわかる ビジネス教養 行動経済学 (サクッとわかるビジネス教養)

著者 : 阿部 誠
出版 : 新星出版社
価格 : 1,320 円(税込み)

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