
ポイント(2)は「研げたかどうかは回数でなく、バリで確認」。研いでいくと、削れた刃先の金属の一部がまくれ上がって反対側にたまる。これがバリだ。目では見えにくいので、刃に指の第2関節をあてて指先へ滑らせ、ジャリッとした感触があればOK。「髪の毛1本を触ったくらいの繊細な感覚です」(林さん)。研いだ側の刃すべてにバリができれば片側は終了だ。
次は反対側を研ぐ。これがポイント(3)だ。片刃だけ研いではバランスの悪い刃になる。砥石に少量水を補充して、今度は刃を向こう側に返し、同じように研ぐ。柄に近いあごの部分は、柄が砥石に当たらないよう、砥石の短辺と平行に置くと研ぎやすい。
ポイント(4)は「バリをとる」。バリは刃に密着しているので、水で流しても取れにくい。1日分の新聞紙ほどの厚みの紙をテーブルの端に置き、刃先を研ぐときの角度で紙にこすりつける。左右に数回往復し、最後に指の腹で取り残しがないか確認する。
「忘れがちなのがポイント(5)です。包丁を研ぐと、砥石も削られます。1ミリメートルでもへこみができれば、刃をぶれさせずに動かすことが難しくなります」と林さん。砥石の手入れには、「面直し砥石」を用いる。刃を研いだあとの砥石を平らになるまで削る。
砥石を水につける時間をのぞけば、傷んでいない包丁なら研ぎ時間は5分ほど。研いだ包丁は片手で持ってトマトをひとなでしただけでスパッと切れた。「トマトが切れなくなる前に包丁の手入れをするのが理想。切れ味のいい包丁は素材の細胞を壊さない」(林さん)。切れ味のいい包丁を使えば料理の効率が上がるだけでなく、料理の見た目、味もアップする。ぜひ包丁研ぎを習慣にしたい。
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切れ味を長持ちさせるために

せっかく研いだ包丁の切れ味を長持ちさせるための、ちょっとした気配りを3つ紹介する。
(1)使用後はよく洗って汚れを落とし、よく乾かす。特に鋼の包丁はすぐに拭いたほうがいい。食洗器に対応していない包丁もあるので注意。
(2)漂白剤は使わない。漂白剤に含まれる次亜塩素酸が、ステンレス包丁の防さび被膜を壊してしまう。
(3)じか火で温めるのはNG。包丁は熱に弱いので、ケーキを切るときに温めるなら、100度以下の熱湯につけるのがおすすめだ。
(ライター 松野 玲子)
[NIKKEIプラス1 2021年11月27日付]