入管・難民受け入れの課題 人の道に反しない法制を同志社大学教授 峯陽一

入管の対応も難民の受け入れも、まずは人権の尊重が最優先だ イラスト・よしおか じゅんいち

スリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが、今年3月、入管の収容施設で亡くなった。職員に病気を認めてもらえないまま、孤独な死を迎えた。海外で暮らした経験がある者なら、外国で一人になることの心細さが想像できるはずだ。カメラで24時間監視されながら、冷たい床に横たわり、天井を見つめ、ウィシュマさんは何を思っただろう。

平野雄吾著『ルポ 入管』(ちくま新書・2020年)は、蟻(あり)地獄のような入管の恐怖を伝える。密室の暴行や医療放置だけではない。いつ外に出られるのかわからずに、収容期間が数年に及ぶことも多い。抗議のハンストで餓死したナイジェリア人がいる。シャワー室で首をつって自殺したインド人がいる。釈放の時が決まっている刑務所生活の方がましだ。

入管の外でも信じられないことが起きている。日本で育ち、日本の学校に通っている子どもが、見たこともない国に「送還」されてしまうのだ。子どもに何の責任があるのだろう。トランプ大統領は米国に不法入国した外国人の家族を引き離そうとしたが、米国民の反対が大きく、諦めた。

おかしなルール

なぜこんなことになるのか。世界には主権が張り巡らされている。国家だけでなく、広くとれば学校や家族もそうだ。これらは外部からの干渉を防ぐ自治的な防波堤として機能する。しかし、おかしなルールが一人歩きすると、いじめやDVになる。誰かが声を上げて、止めないといけない。そうでないと主権も守れない。

鳥井一平著『国家と移民』(集英社新書・20年)は、昔ながらの頑固な「組合オルグ」の著者が外国人労働者のために闘う姿を描く。鳥井は、外国人労働者は研修生や学生ではなく、労働者として正式に入国してもらい、しっかり権利を保障すべきだという。

その活動を評価されて、13年、鳥井は米国務省から表彰を受けた。内政干渉だと思われるかもしれないが、この島国の行く末が心配だという米国のメッセージだろう。鳥井によれば、自分の活動の源泉は「贈るよろこび」なのだという。助けられた人が他の困っている人を助けて互助が広がることを、鳥井は願う。

入管問題に関する本はルポが多いが、中島京子著『やさしい猫』(中央公論新社・21年)は小説だ。よく取材されており、設定は現実に限りなく近い。スリランカ人の自動車整備工のクマさんと、シングルマザーの母子が出会い、家族をつくろうとする。ところが、クマさんが二人の結婚を入管に知らせに行くと、いきなり捕まってしまう。閉じ込められたクマさんを取り戻そうと、皆が動き出す。下町の庶民が入管の仕打ちを見たら、どう思うか。市井の人々の正義の感覚はあなどれない。

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