ひらめきブックレビュー

上司と部下の関係改善で高まる組織力 1on1の勧め 『上司と部下は、なぜすれちがうのか』

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リモートワークなど働き方の多様化に加え、業務委託や定年後の再雇用など雇用形態の多様化が進んでいる。こうした変化を受けて、上司と部下の関係も変わりつつある。部下を管理するために「上司は強くあらねばならない」とされた時代は過ぎ去り、社内の上下関係にも新たなスタイルが求められている。

では、どうやって上司と部下の関係を築けばよいのだろうか。注目されているのが「1on1(ワンオンワン)」だ。上司と部下が、定期的に時間を設けて1対1の会話をすることで、仕事への意欲を高め、生産性、離職率、従業員のエンゲージメント(貢献意欲)などを改善し、組織の力を最大化することを目指す手法だ。

1on1を効果的に行う道しるべとなりうるのが、本書『上司と部下は、なぜすれちがうのか』である。著者の本田英貴氏は、1on1を支援するクラウドシステムを提供するKAKEAI(東京・港)の代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)だ。

部下は何を期待しているのか

著者が1on1の普及に力を入れる背景には、リクルートでマネジャーを務めていた際の痛烈な失敗の経験がある。定期的な対話によって部下のことを理解していると思っていたにもかかわらず、「ついていきたくない」という評価を受けたのだ。振り返れば、部下との対話は、「これでできそう?」とたずねて「やれます」と言わせるような、自分本位のやりとりになっていたと反省する。

こうした経験を踏まえ、本書では1on1で成果をあげるためのポイントをまとめている。1つは、信頼関係構築のため、上司が自分の考えや仕事への思い、プライベートな情報を含めた自己開示をすることだ。さらに、部下がどう感じるかを知り、自分に期待された役割を把握してから話を聞くことも重要という。

具体的に言えば、部下は意見を求めているのに、上司が話を聞いているだけでは「すれちがい」が起こる。1on1を始める前、部下から上司に話を聞いてほしいのか、一緒に考えてほしいのかなど、期待していることをあらかじめ伝えておくとすれちがいを防げるとする。

1対1だから弱みを見せられる

本書では、伊藤忠商事、リコージャパン、NTTコミュニケーションズの事例が紹介される。例えば、伊藤忠商事では、新型コロナウイルス禍でコミュニケーションの機会が減ったことなどを機に1on1を導入。1対1だからこそ弱みを見せやすく関係が深まったとか、OJT(職場内訓練)とは異なり、抽象化した概念やアイデアも自由に話せるといった声があった。

ただ、1on1には、上司の時間的な負担が増えるなどの懸念もある。私の所属する組織でも1on1を導入しているが、定期的な実施に至っていない。上司の負担と組織に対する効果とのバランスをとり、全体でプラスの効果を上げる難しさがある。本書はトライアルでの実施や、DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の育成に目的を絞った例などを紹介しており、実践する際の参考になるだろう。

人材の流動性が高まる中、1on1はマネジャーが社員をつなぎとめる力を高める上でも役立ちそうだ。社内の上下関係のあり方に課題を感じている人に、本書を手にとっていただきたい。

今週の評者 = 高野 裕一
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。信州大学卒。

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