酒量過ぎれば膵臓ダメージ 慢性膵炎、糖尿病併発恐れ
リモートワークで家にいる時間が増え、つい酒量が増えてはいないだろうか。度を過ぎた飲酒は膵臓(すいぞう)の異常につながりかねない。年末年始を控えるこの時期、膵臓の働きと慢性膵炎について知っておこう。
膵臓はみぞおちの少し下あたり、胃の背中側に位置する臓器だ。福岡山王病院(福岡市)の伊藤鉄英膵臓内科・神経内分泌腫瘍センター長は「膵臓は相当悪くならないと痛みなど危険信号を発しない『寡黙な臓器』と呼ばれている」と指摘する。
膵臓の主な働きは食べたものを消化する膵液をつくって十二指腸に送り出すこと(外分泌)、インスリンなど血糖値を調節するホルモンを分泌すること(内分泌)だ。
膵液は炭水化物や脂肪、タンパク質を分解できる強力な性質を持つ。これが膵炎を引き起こす原因にもなる。
膵液に含まれる消化酵素は通常、十二指腸で活性化される。しかしアルコールをとりすぎたり、胆石が膵液の出口に詰まったりなどすると、調節機能が働かない。膵臓自体を溶かし、炎症を起こす。これが急性膵炎だ。軽い胃痛から始まり、やがてみぞおちを中心とした激痛に変わる。症状が重くなると、命にかかわるケースもある。
主に多量の飲酒により急性の炎症を繰り返すと、膵臓全体が硬く萎縮していく(線維化)。5~15年と長い時間をかけ、慢性膵炎に移行する。痛みのないまま進みかねない。インスリンなどのホルモンの分泌機能が低下し、糖尿病を併発する可能性もある。
慢性膵炎と診断される平均年齢は60代、男性が女性の4.6倍というデータがある。伊藤センター長は「原因は不明の場合もあるが、男性の場合は75%がアルコール性」と語る。1日にアルコールを60グラム(純エタノール換算)以上飲むと、慢性膵炎の発症率は飲まない人の9.2倍になるという。ビールであればロング缶2~3本分に相当する。
みやぎ県南中核病院(宮城県大河原町)企業団の下瀬川徹企業長(消化器内科医)は「線維化が広がると、症状改善が見込みにくい。膵臓がんのリスクも高くなる。少しでも早く気づいて対応するのが大切だ」と強調する。
日本膵臓学会では慢性膵炎臨床診断基準の2009年改訂時に「早期慢性膵炎」という概念を取り入れている。「この段階で治療や生活習慣の見直しをしておけば、膵臓の状態を改善できるかもしれない」と下瀬川企業長。
ただ慢性膵炎は早い段階では原因がよくわからず、発見しにくい場合が多い。脂ものを食べるともたれる、みぞおちが痛む、背中の不快感といった症状がみられても、胃の不調である「機能性ディスペプシア」や「過敏性腸症候群」などと診断される例がある。お酒をよく飲む習慣があり、こうした症状が続く人は膵臓の専門医のいる消化器科に相談するようにしたい。
専門医に受診すると、膵臓の状態を血液検査や腹部超音波検査(腹部エコー)で調べることになる。膵炎の疑いがあれば、より詳しく胃の内部から超音波を使って状態を調べる(超音波内視鏡検査)。早期慢性膵炎の段階でも診断できるという。
慢性膵炎とわかったら、まず飲酒や喫煙を控えたい。伊藤センター長は「酒量は主治医に従ってほしい。膵液の分泌状態を調べる検査をし、1日の脂質の摂取量など制限することもある」と説明する。悪化を防ぐため、休肝日ならぬ「休膵日」を提唱。便秘に気をつける、よくかんで食事をする、ストレスをためない、といった点を注意する。
下瀬川企業長は「慢性膵炎の早期発見は膵臓がんの予防にもなる」と訴える。日常生活から意識したい。
(ライター 荒川 直樹)
[NIKKEI プラス1 2021年12月25日付]
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