ひらめきブックレビュー

下請け企業から家電メーカーへ 新潟の町工場の挑戦 『ツインバードのものづくり』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

「ツインバード」と聞いて家電メーカーだとわかる人は、まだ少ないかもしれない。しかし、同社のコンパクトな冷凍庫は新型コロナウイルスワクチン運搬庫として採用されるなど技術力は確かだ。本書『ツインバードのものづくり』は、新潟県燕三条地域のメッキ加工業だった同社が年商100億円を超える家電メーカーに成長した理由と、今後の挑戦について、創業家3代目で2011年から社長を務める野水重明氏が明らかにしている。

同社の歩みは、大手企業と同じ市場でしのぎを削る中小企業や、地方から全国ひいては世界にチャレンジしたい企業にとっても学ぶところが多そうだ。

■「社外との共創」を原動力に

下請け企業だったツインバードは1962年、発注元企業の業績の影響を避けるために自社製品の開発に乗り出した。その後、製品をフライパンや金属トレーなどから家電へと変えていった。時代の変化に応じてビジネスモデルを転換してきたことが飛躍の一因のようだ。

強みは2つある。1つは「社外との共創」だ。大ヒット商品「全自動コーヒーメーカー」では、「世界一のコーヒーメーカー」を目指し、コーヒー界のレジェンドで、東京・南千住「カフェ・バッハ」店主の田口護氏に教えを請うた。燕三条は江戸時代から金属加工の町として栄えてきた。ビジネスパートナーである地元の協力企業の知見を積極的に取り入れ、「共創」を原動力として完成にこぎ着けた。

もう1つの強みは「市場との呼吸」だ。ツインバードは、かつてコーヒーメーカーを開発した際、顧客から「音が大きい」などの不満を聞いており、改善できれば成功すると確信していたという。顧客や市場との対話を、著者は「市場との呼吸」と表現して重視する。象徴的なのはコールセンターが企画開発部門と同じフロアにあることだ。1日に約300件の顧客の声が届き、企画開発部門にフィードバックされる。顧客と開発の距離を縮めることで、徹底的な「マーケットイン」を実現しているのだ。

リブランディングでさらなる進化

2021年に行った大胆なリブランディングは、今後のさらなる進化を期待させる。同社はこれまで主に手がけてきたカタログギフトのビジネスから、顧客に直接アプローチするビジネスにシフトすることを目指している。その過程ではブランドこそが重要になると判断。施策の一環として、商品点数を600から300に半減した。当初は社内の不満が大きかったが、これを機に社員と対話する場を設けて理解を進めた。「心にささるものだけを。」というブランドプロミスを掲げ、今では社内の共感も得ているようだ。

著者は最後に、フェラーリやIKEAなどの超一流ブランドも人口6万人以下の小さな都市から生まれていることに触れている。燕市と三条市の人口はそれぞれ8万人と9万人だ。「燕三条地域から世界的なブランドが生まれても不思議ではありません」という言葉には、リブランディングの手応えと、今後の進化への自信が表れているように感じられた。

今回の評者 = 渋谷 祐輔
情報工場エディター。徳島県出身。機械部品の専門商社を経て、仲間と起業。東京農業活性化ベンチャーを掲げ、小売店・飲食店の経営、青果卸売などに取り組む。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。