ひらめきブックレビュー

脳は現実を伝えない 専門家が明かすマーケティング術 『「欲しい!」はこうしてつくられる』

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先日、オンラインショップで健康に良さそうな野菜ジュースが目に入り、つい衝動的に購入ボタンをクリックしてしまった。少し不安ではあったが、届いた商品は味も好みだし、何より日ごろの野菜不足を解消できそうだと感じた。結果的に「良い買い物をした」と感じられたのだが、その認識は本当に正しいのか。ショップやメーカーに、まんまと誘導されただけではないだろうか――。

そんなことを考えていたとき、本書『「欲しい!」はこうしてつくられる』(花塚恵訳)を手にとった。本書は、消費者の購入判断が実に様々なマーケティングの影響を受けており、脳科学の知見を巧みに利用したテクニックで、いかに消費者の思いや欲求を引き寄せようとしているかなどを、つぶさに教えてくれる。著者は、脳科学者でハルト・インターナショナル・ビジネススクール教授のマット・ジョンソン氏と、同校教授でありマーケターでもあるプリンス・ギューマン氏だ。

■プロのソムリエがワインの「見た目」にだまされる

本書では、こんな衝撃的な事例が紹介されている。フランスのボルドー大学で、ソムリエにワインを飲み比べてもらう実験が行われた。ソムリエは、あるワインを「柑橘(かんきつ)」、別のワインを「ラズベリー」にたとえた。一つは白ワイン、もう一つは赤ワインに見えたが、実は前者は白ワイン、後者は食紅で同じ白ワインを赤くしたものだった。どちらも味は一緒なのに、プロであるソムリエが見た目の違いにだまされたのだ。

実は私たちは、現実世界を"ありのまま"に体験していないのだという。著者の言葉を借りるならば、体験しているのは「自身の内側で語られる世界」。つまり、ソムリエはワインそのものではなく、飲んだ時はこうあるべきという潜在的な「脳の推測」を体験した。赤ワインならば、ラズベリーという「赤い食べ物」に似た味がするだろうという脳の推測に惑わされたのである。

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