最近好まれる純米吟醸や大吟醸は、軟水で仕込む方が向いているといい、仕込み水使用量の9割を軟水が占める。同社が単価の高い吟醸酒にシフトし、澤乃井ブランドの都内でのシェアを伸ばすのに貢献した。

ただ、小沢社長は「江戸時代からの酒造りの伝統を伝えていくのも当社の使命だ」と話す。その象徴が同社発祥の水源からの硬水を使い、サブブランドとして発売した東京蔵人だ。乳酸菌を自然発酵させる「生酛(きもと)づくり」で仕込む。

醸造過程で、通常は日本酒に必要のない雑菌をなくすため、人工の乳酸を投入。生酛づくりでは、人工の乳酸がなかった江戸時代と同じように、乳酸菌も自然に醸成されるのを待って造る。仕込みの時間は通常より長くなるため、発酵が進みやすい硬水を使う。

「酸の出方が複雑で、味もふくよかで、ボリュームが出る」との小沢社長の説明通り、酸味のある力強い味わいが口の中に広がる。手間がかかり、4合瓶換算で年間約1万2500本分しか製造していない。

国内での販路を百貨店などに限る一方、米国や台湾、香港にも輸出し「酸の感じがワインにも通じ、肉料理にも合うとの評価を得ている」(小沢社長)という。

1966年から酒蔵見学を受け入れる。翌67年以降も軽食などが食べられる場所や美術館などを次々とつくり「酒蔵ツーリズムの先駆け」を自任する。東京蔵人を生み出す、江戸時代から残る井戸や酒蔵は誰でも見学できる。

コロナ禍で団体客が減る中、家族連れであまりお酒を飲まない客も取り込もうと、2021年11月には軟水井戸の水を抽出水に使うカフェを開業した。「コーヒーもやはり水が大事であることをわかってもらいたい」(小沢社長)と、同社の水へのこだわりも込めた。

(多摩支局長 一丸忠靖)

[日本経済新聞電子版 2022年3月24日付]