小売業者に電子商取引(EC)システムを提供するカナダのショッピファイが急成長している。2020年12月期の増収率は8割を超え、上場後初の営業黒字も達成した。19年末からの時価総額の伸びは3倍と米アマゾン・ドット・コムの1.7倍を大きく上回り、「アマゾンキラー」とも呼ばれる。躍進の秘訣を探ると、運転資金の融資といった金融サービスで稼ぐもう一つの側面がみえてくる。

ショッピファイの20年12月期の連結売上高は前の期比86%増の29億2949万ドル(約3200億円)、営業損益は9015万ドルの黒字(前の期は1億4114万ドルの赤字)と大きく成長した。顧客が運営するECサイトでの取引金額を示す流通総額も1195億ドルと96%増加。「(新型コロナウイルス下の)困難な年でも多くの加盟店が成功を収めた」とハーレイ・フィンケルスタイン社長は強調する。

特に主戦場の米国での流通総額はいまやアマゾンに次ぐ2位。同社を介さずに自社サイトでモノを売りたい企業を取り込んで急成長し、付いたあだ名は「アマゾンキラー」。15年にニューヨーク証券取引所に上場し、足元の時価総額は約1420億ドルとアマゾンの1割に満たないものの、コロナ禍が続くこの1年3カ月での伸び率ははるかに高い。

ショッピファイの収益源は主に2つ。まずはECシステムの利用料が中心の「サブスクリプション事業」だ。同事業の収入は「顧客数×月額料金」で決まるため、増収率は顧客数の伸びに縛られる。実際、20年末の顧客数は174万9000社と1年間で64%伸びたが、サブスク事業の売上高は20年春に実施した無料キャンペーンも響いて9億875万ドルと41%増にとどまった。

全社の業績が「主力」のはずのサブスク事業を上回って成長ができたのはなぜか。その要因を探ると、「マーチャント事業」が大きく伸びたのがわかる。決済システムの提供や融資などを手掛け、売上高と増収率はそれぞれ20億2073万ドル、116%とサブスク事業を圧倒する。粗利益額も8億2629万ドルと、サブスク事業(7億1522万ドル)を逆転した。

そのマーチャント事業のなかでも見逃せないのが、顧客企業への運転資金の融資がメインの「ショッピファイ・キャピタル」。貸出額は7億9440万ドルと1年間で8割伸びた。

コロナ禍で業績が低迷する事業者への融資について、一般の金融機関は担保などに基づいて慎重に判断しがち。一方、ショッピファイは顧客企業の売り上げ情報をもとに返済能力や利率を判断し、融資後は売上高の一部を差し引く形で回収する。プラットフォーマーとして過去の経営状況と貸し倒れリスクの関係といった情報もフル活用し、比較的低リスクで稼ぐことができる。

融資の拡大に伴い、貸借対照表に記載された貸付金などの金額は20年末時点で2億4472万ドルと19年末から63%増えた。現金を寝かせずに融資に回し、資産効率を改善させる効果もある。総資産に対する営業キャッシュフローの比率は20年12月期に5.5%と3年間で約5ポイント改善。一般的に優良企業とされる10%に近づいている。

金融業のメリットは、顧客企業の成長と自社の収益拡大の双方が見込める点にある。足元の資金繰りに苦しむ顧客が事業を続けられれば、サブスク収入も続き、事業成長で取扱高が増えれば決済手数料も増える。「本業も金融からの収益も伸ばせる、相性がいい仕組み」(マネーフォワード・フィンテック研究所の瀧俊雄所長)と言える。

流通総額の増加を効率的に取り込めるかどうかで、競合のなかでも成長力に差が出ている。米ビッグコマースの料金体系はショッピファイとほぼ同じだが、金融を本格的には手がけていない。20年12月期の連結売上高は36%増の1億5236万ドルと、ショッピファイのサブスク事業並みの増収率にとどまった。

米国では原則として一般事業会社が銀行業を営むことは禁じられ、IT(情報技術)企業による預貸事業は難しい。ショッピファイは貸金業者として米国の一部の州で認可を取得しているようだ。アマゾンは消費者向け事業がメインのため、企業向けの融資業は大々的には手掛けていない。

ショッピファイ株は日本からでも大手証券会社などを通じて購入できる。EC市場を上回る成長を投資家も評価し、株価の伸び率はアマゾンだけでなくイーベイの71%よりも高い。

ただ金融分野での競争は激しくなりそうだ。フィンテックの成長などにあわせ規制見直しの議論が進む。米連邦預金保険公社(FDIC)が、一部で制約はあるものの一般の銀行に近い業務を手掛けられる産業銀行(ILC)と呼ぶ形式での認可を出す例が増えている。

楽天がこの仕組みで認可を申請しているほか、「(米IT大手の)GAFAもこの分野で事業拡大を狙っていることは疑いの余地がない」(国内IT大手)

コロナ禍が収束すればEC需要の増加ペースは鈍るとみられ、ECシステムの競争環境は厳しくなる可能性がある。ショッピファイは2月、「成長戦略に必要」として15億5170万ドルを調達すると発表した。競争が激化するなかでアマゾンを脅かす以上の存在になれるかは、新たな資金をどういかすかにかかっていそうだ。(秦野貫)

[2021年4月7日 日経電子版を再構成]

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