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ルルレモン、時価総額H&M超え 「御三家」の一角崩す

Discover Canada Sponsored byカナダ観光局

カナダアパレル大手、ネット販売5割で利益率突出

2022.4.20

ルルレモンの六本木にある店舗

世界のアパレル勢力図で変動が起きている。カナダのルルレモン・アスレティカが巣ごもり需要で業績を拡大させ、時価総額は「御三家」の一角、スウェーデンのヘネス・アンド・マウリッツ(H&M)を上回る。店頭ではフィットネスなどの魅力を訴え、ネットで商品の販売を伸ばす。店頭では「売らない接客」は丸井グループが参考にするなど、デジタル時代の事業モデルとしても注目される。

「全ての事業領域で継続的な強さを証明した」。ルルレモンのカルビン・マクドナルド最高経営責任者(CEO)は9月上旬に発表した2021年5〜7月期連結決算をこう評価する。売上高は前年同期比6割増の14.5億ドル(約1600億円)、純利益は2.4倍の約2億ドル(約230億円)と大幅に伸びた。

好決算で株価は最高値圏で推移し、時価総額は約6兆円まで拡大した。H&M(3.5兆円)とは抜きつ抜かれつだったが、いまや「ZARA」のスペインのインディテックス(11.9兆円)、ファーストリテイリング(8兆円)に次ぐ。インディテックス、ファストリ、H&Mの「アパレル御三家」の一角をルルレモンが崩しつつある。

ルルレモンのヨガクラス

ルルレモンは1998年にカナダで創業した。ヨガウエアのほか、スカートやワンピースなども販売している。単価が高く、伸縮性が売りの男性用ズボン「ABCパンツ」は日本で1万8800円。女性を中心にデザインと品質への評価が高かったところに、コロナ下で自宅周辺の外出にも使える「ワンマイルウエア」として流行し、販売を伸ばしている。

20年度決算でインディテックス、ファストリ、H&Mと比べると、ルルレモンの売上高は44億ドル(21年1月期)でH&M(20年11月期)の5分の1程度だが、純利益は5億8800万ドルとH&Mの約4倍ある。売上高純利益率は13.4%でファストリの4.5%(20年8月期)、インディテックスの5.4%(21年1月期)を上回る。

強みは高単価の商品が生み出す粗利益率と、ファストファッション大手と一線を画す事業モデルだ。店では「エデュケーター」と呼ぶ店員が、商品だけでなくヨガやフィットネスに関する情報を提供。ランニングコースやヨガの上達法も教える。その場で服を購入してもらわなくても、ネットで購入してもらえればいいという考えだ。競合のようなマス広告に頼らず、セレブの口コミなどを活用し価格競争力とブランド力を維持する。

ルルレモンの電子商取引(EC)比率は前期で5割超だった。3割前後とみられるインディテックスやH&M、国内ユニクロ事業で1割強のファストリを上回る。売上高粗利益率は55%台で、ファストリやH&Mより5ポイント以上高い。

ルルレモンの店舗は世界に500超ある。6000店を超すインディテックス、約3600店のファストリと比べ、店舗にかかる人件費などが少なく済む。売上高に占める販売費・一般管理費(減価償却費など含む)の割合は30%台と、40%台の3社より低い。

今後は一段のデジタル戦略が成長のカギを握る。ルルレモンは5億ドルを投じ、鏡の形をしたデバイスを使って自宅でオンラインのフィットネス講座を提供する米ミラー社を買収した。

ルルレモンのカルビン・マクドナルドCEO

コロナの収束が不透明ななか、ルルレモンは自宅でのトレーニング需要が増えるとみて、ウエアなどの買い替えなどを促す。マクドナルドCEOはミラー社について、「汎用性の高い家庭用フィットネスプラットフォームだ」と話す。ルルレモンの現預金は21年1月期末で10億ドル以上あり、さらなる成長投資やM&A(合併・買収)の余力もある。

一方、コロナ下の行動制限の緩和に向けた動きがあるなか、株式市場ではルルレモンの事業環境を懸念する声もある。直近のEC比率は40%台。店頭に客がさらに戻るようだと、人件費などが増える可能性もある。オンラインフィットネスについては「足元でフィットネスジムの利用が戻りつつあり、自宅でのトレーニング向け市場は競争が激しくなっている」(米ジェフリーズ)。

またルルレモンは靴など品ぞろえを拡充する方針を打ち出している。ナイキなど強力なライバルがいる商品群での競争力は未知数といえる。ウエアを中心にネット販売で高い利益率を維持してきたビジネスモデルが、変調を来すリスクはある。

米アマゾン・ドット・コムの「アマゾンエフェクト」やコロナ下での電子商取引(EC)市場の拡大を背景に、店舗で実物を見てネットで購入するスタイルは日本でも普及するとの見方がある。ルルレモンの店頭での「売らない接客」は丸井グループも参考にする。NTT東日本もスタートアップと同じような手法の事業を始めた。

日本にはルルレモンの店舗が東京・六本木、大阪市などにある。アジアは中国で店を増やしてきたが「静岡・御殿場のアウトレットに続き、今後も日本で店舗を拡大していく」(ルルレモン日本法人社長のスチュワート・テューダー氏)。鏡の形をしたデバイスでフィットネス講座を提供するミラー社のサービスについても、国内での導入を検討しているという。

(松川文平、渡辺直樹、藤村広平)

[2021年9月21日 日経電子版を再構成]

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