ひらめきブックレビュー

中国ではカレーも中華鍋で ブランド海外展開の成功法 『ブランドカルチャライズ』

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日本国内は人口が減少し、市場の成長は頭打ちとなっている。昨今の円安や資源高もあり、海外進出や訪日需要の取り込みを狙う企業は多いだろう。そのために何をしたら良いかを考えるヒントになるのが、本書『ブランドカルチャライズ』である。

ブランドカルチャライズとは、コンテンツを海外に進出させる際、現地の言葉に翻訳する「ローカライズ」を超え、文化的に許容されるように現地の消費者の「知覚」に合わせてブランドの表現を調整することを指す。

著者の久保山浩気氏と川崎訓氏は、日本ブランドの海外進出におけるマーケティング支援などを手掛けるバルコニア(balconia)上海法人の総経理と副総経理を務める。本書では、実際のプロジェクトを通じて得た具体的、実践的なノウハウを体系的に整理している。

現地の環境や文化を理解する

ブランドカルチャライズを実践する前提として、現地の市場環境やバックグラウンドを理解することが重要だ。そのために著者らは、「伝統・文化・宗教」「ライフコース」「世代論」の視点を押さえるべきだと指摘する。

わかりやすい例は、ハウス食品のカレールーのパッケージ裏にある調理方法の図だ。中国では、日本のような煮込み鍋でなく中華鍋を使った図が描かれている。中国の家庭では多くの料理を中華鍋で作るため、煮込み鍋では特別感が出て、ルーを購入するハードルが上がるからだ。現地の「文化」に合わせて表現を調整している。

この例では、日本人は、煮込み鍋が特別だとは認識していない。つまり特別なものとして「知覚」していない。ほかにも、日本の消費者にとっては安っぽいと感じられる香りが、他国では高級な香りとされるケースなどもあるという。自分達がもつ「知覚」と現地の消費者の「知覚」の違いを明確にし、対策することで、思い込みやセンスなどに頼らないロジカルなブランドカルチャライズを実現できるのである。

国内のマーケティングにも応用

本書では、架空のヘアケアブランド「パトロ」を例に、ブランドカルチャライズのプロセスを具体的に記している。実際のデスクリサーチや消費者調査をベースにしており、読者はイメージが湧きやすい。

例えば、「ナチュラル志向」のライフスタイルにこだわる層について、日中で雰囲気が異なる話は興味深い。同じナチュラル志向でも、日本では温かい・やわらかい印象のものが好まれるのに対し、中国では洗練されたテクノロジー感のあるものが好まれるという。似たような例はどの業界のビジネスにもありそうだ。海外展開に向けた市場調査の切り口として参考になる。

本書の内容は、海外でのブランドカルチャライズだけでなく、国内でのマーケティングにも役立つに違いない。日本市場を「現地」と捉えて、バックグラウンドをあらためて知ることは、消費者への理解を深める。それによって、新しい市場の発見や効果的なリブランディングにもつなげられるはずだ。

今回の評者 = 渋谷 祐輔
情報工場エディター。徳島県出身。機械部品の専門商社を経て、仲間と起業。東京農業活性化ベンチャーを掲げ、小売店・飲食店の経営、青果卸売などに取り組む。

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