かむとき違和感、歯にひびが? 注意したい歯根破折
かむときの違和感や歯茎の痛みがある場合、歯の根の部分にひびが入っている可能性がある。歯の根が折れてしまう「歯根破折(はせつ)」となると、抜歯が必要になるケースが多いのだという。予防策を知って歯を守ろう。
歯が折れる「破折」は意外に多い。「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」と呼びかける8020推進財団(東京・千代田)の2018年の「永久歯の抜歯原因調査」によると、歯を失う原因として破折は歯周病、虫歯に次ぐ3番目の多さだった。
破折は歯茎から上にみえている部分が折れる歯冠破折、歯茎に埋もれた根の部分が折れる歯根破折がある。歯を失う原因になりやすいのが歯根破折だ。歯根のひびに細菌が入り込んで増殖すると、違和感や歯茎を押したときの痛みといった症状が出る。ひどくなると歯茎が腫れて痛み、かめなくなってしまう。
歯根破折治療に詳しい北海道大学大学院歯学研究院の菅谷勉教授は「歯の根の部分が縦に割れる。歯に長期間負荷がかかり続け、小さなひびが入って割れることが多い。虫歯の治療で神経を抜いた歯に起こりやすい」と指摘する。
治療で歯の神経を取ると、金属製の土台を詰めてかぶせ物をすることが多い。歯根破折専門外来を設ける長谷川歯科診療所(東京・文京)の長谷川晃嗣院長は「歯はかむと少したわむが、詰めた金属は歯より硬くてたわみにくく、かんだときの力が歯根に集中しやすい。これがひび割れを招く」と説明する。
歯の土台は金属製以外にグラスファイバー(ガラス繊維)を芯に使ったものも登場している。歯根への負担が少なく、破折の予防にもなるという。16年には一定の条件を満たせば健康保険の適用も受けられるようになった。
歯に大きな力がかかる歯ぎしりやかみしめも歯根破折の原因になりうる。昭和大学歯学部の馬場一美教授は「睡眠中に歯ぎしりやかみしめをしている人は5~15%いるとされる。歯ぎしりでは体重と同じくらいの力が歯にかかることもある」と話す。睡眠中の歯ぎしりは気づきにくいが、起床時にあごの疲れを感じたり、歯がすり減ったりしている場合は可能性がある。診断に当たっては睡眠時の筋活動を測定する検査もある。
「歯ぎしりやかみしめは眠りが浅いと起こりやすい。睡眠の質をよくするのが重要だ」と馬場教授。寝る前の飲酒やカフェイン摂取、喫煙、スマートフォンの視聴、ストレスなどは脳を覚醒させ、睡眠を妨げるので注意したい。
睡眠中の歯への負荷を減らすにはスプリント(マウスピース)を使う方法もある。歯科で自分の歯に合ったスプリントをつくり、寝るときに装着する。過度な力から歯を守るのが狙いだ。
無意識のうちの日中のかみしめにも注意したい。上下の歯は何かを食べたり、のみ込んだりするとき以外は触れていないのが普通だが、接触させるのが癖になっているケースがある。馬場教授は「上下の歯の接触やかみしめに気づいたら、即座に深呼吸しよう。繰り返せばかみしめを減らしていける」と助言する。
菅谷教授は「よくかむことは強くかむことではない。食事のときにもそれほど強い力は必要ない。試しになるべく弱い力でかんでみてほしい」と強調する。
歯根が折れてしまうと、通常は抜歯となり、入れ歯やブリッジ、インプラントといった治療をする。保険適用外ですべての歯科が対応しているわけではないが、接着剤で割れ目を塞ぐ「接着治療」も出てきている。「ひどくなる前に治療すると、歯を残せる確率が上がる」と長谷川院長。いずれにしても早めの対処を心がけるようにしたい。
(ライター 佐田 節子)
[NIKKEI プラス1 2021年11月20日付]
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