レジリエンスが大事に
「大学をオーケストラに例えるなら、各教員の演奏能力が高まれば、オーケストラは数段進歩します。指揮者である学長は教員の士気、モラルを高めていく必要があります。教員には自分の専門分野にこもらず、学際的な力を身に付けてほしい。名古屋外大では学術誌の発行や市民講座の開設を通じて教員の力を高めています」
――大学の変革は続けられますか。
「現在も新しい外国語大学をつくるための議論をしています。まだ私の構想段階ですが、人工知能(AI)から翻訳論、世界史を大局的に見るグローバルヒストリー、さらには平和構築学にいたる現代知の基礎を英語で学ぶことを目的とした学科の新設を構想中です。フランス語学科や中国語学科もより大きなヨーロッパやアジア全体を学ぶ学科にしたいと考えています」
――改革にあたってのリーダーに必要な心構えは。
「大事なのは打たれ強さ、レジリエンス(回復力)です。変えられないものを受け入れるとともに、感謝の気持ちが必要になります。感謝の気持ちを生み出すのは、自分という人間の小ささの自覚です。その自覚をもたらすのは何かしら大きなものの存在です。私にとってそれは若い頃に出合った芸術の力でした。人はそれぞれの関心の領域で、大きな力に出合うことができるのです。その大きな力に触れようと努力することは人生に与えられた永遠の課題です」
(安西明秀)
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各地で地元オケに参加
幼少期から音楽、楽器演奏を愛する。クラシック音楽体験の原点は小学2年生で聴いたチャイコフスキーの「くるみ割り人形」。大学生で所属したオーケストラクラブではフルートを希望したが、空いているパートがチェロしかなく、それ以降チェロをたしなむ。学者になってからも大学を移るたびに地元の市民オーケストラに参加する。自身にとって音楽とは「喜びとしか言いようがない」。最近は散歩をしながら松山千春や吉田拓郎を聴きノスタルジーにひたる。
「カラマーゾフの兄弟」にある「人を愛する者は人の喜びをも愛する」の一行。隣人から学びなさいというメッセージです。私は人が面白かったと言う本や映画は必ず試します。その人を理解し教養を広げる原点になります。
[日本経済新聞夕刊 2022年6月23日付]