円形脱毛症、誰もが発症の可能性 ストレス以外も要因
ある日突然、頭髪が抜ける「円形脱毛症」。年齢や性別を問わず誰もが発症する可能性がある。原因と考えられてきたストレスは誘因の一つにすぎず「自己免疫反応」の関与が分かってきている。
円形脱毛症はある日突然、頭髪が抜けてしまう病気。発症の仕組みは明らかになっていないが、「自己免疫反応」によって脱毛が起こることが分かってきている。
人の体には細菌やウイルスなどの異物が侵入したとき、攻撃して身を守る免疫機能が備わっている。この免疫機能に異常が生じ、自分自身の体の一部を攻撃してしまうのが自己免疫反応だ。
脱毛症専門外来を担当する浜松医科大学の伊藤泰介病院教授は「円形脱毛症の場合、免疫細胞のTリンパ球が毛根を誤って攻撃することで炎症が起きて、毛が成長できずに抜けてしまう」と説明する。
一般的にはストレスが原因と考えられてきたが、発症のきっかけの一つにすぎない。過度な疲労や睡眠不足、インフルエンザなどの感染症、出産などで発症したり、再発したりすることもある。「最近は新型コロナウイルスのワクチン接種後や感染後に、円形脱毛症を発症する人もいる」(伊藤病院教授)
思い当たるきっかけがないことも多く、年齢や性別を問わず誰もが発症する可能性がある。血縁者に円形脱毛症を経験した人がいる場合は、なりやすい体質が受け継がれていると考えられるが、必ず発症するわけではない。
症状は5つのタイプに分けられる。頭髪が円形に1カ所抜ける「単発型」、2カ所以上抜ける「多発型」、頭髪の生え際が帯状に抜ける「蛇行型」、頭髪がすべて抜け落ちる「全頭型」、眉毛やひげなどの体毛も抜ける「汎発型」だ。脱毛範囲が頭皮の25%以上になると重症とされる。
なごみ皮ふ科(神奈川県海老名市)の斉藤典充院長は「最も多いのは単発型。脱毛範囲が小さく広がってこなければ、しばらく様子を見るうちに自然に治ることもよくある」と話す。ただ、脱毛範囲が小さくても気になる場合や、脱毛部位が増えたり広がったりしたときには、早めに皮膚科専門医がいる医療機関を受診するといいだろう。「治療は脱毛の範囲や進行の速度などを考慮して選択される」(斉藤院長)
軽症の初期には炎症や免疫反応を抑えるステロイドの塗り薬のほか、抗アレルギー作用のある飲み薬などを併用することが多い。成人で脱毛範囲が小さい場合はステロイドの局所注射も推奨される。
重症の場合は患部に化学物質を塗ってかぶれを起こし、別のTリンパ球を呼び寄せることで、免疫のバランスを整える局所免疫療法が行われる。ただ、伊藤病院教授によれば「円形脱毛症患者の約4割はアトピー性皮膚炎を合併しているため、かぶれを起こす治療が難しい場合もある」という。
そうしたなかで今年6月、中等症以上のアトピー性皮膚炎の治療に使われてきたバリシチニブが、一定の条件を満たす難治性の円形脱毛症にも適応となった。同薬は炎症や異常な免疫反応に関与する物質の働きを阻害する作用などがある。治療が受けられる医療機関は限られるが、局所免疫療法が難しかった人や効果が感じられなかった人には、新たな治療の選択肢となる。
円形脱毛症は自然に治ることも多い一方で、治ったあとに再発を繰り返すこともある。斉藤院長は「脱毛の悩みを家族にさえ打ち明けにくいという人も少なくない。そんなときには医師とよく話をしたり、患者会などで同じ経験を持つ人と語り合ったりすることで不安が軽減できることもある」と話している。
(ライター 田村 知子)
[NIKKEI プラス1 2022年8月20日付]
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