大事なのは「人心を一つにする」こと

ファイザーのワクチン開発プロジェクトでは、誰もやったことのない短期間での開発を明確な目標に掲げ、あらゆる無駄を省き、プロセスの効率化を図った。例えば、すべてのワクチン候補が出そろうのを待たず、候補ができた順にテストしてゆき、見込みの低い候補は早い時点で振り落とす、というような具合だ。

プロジェクトメンバーの気持ちが、強力な使命感で一つになっていなければ、なし得ないことだ。精神論に聞こえるかもしれないが、そこが常識を超えるイノベーションをチームで起こすのに最も重要なことだろう。

ブーラCEOは人心をまとめるのにファイザーのパーパス(存在意義)を用いた。「患者さんの生活を大きく変えるブレークスルーを生みだす」が同社のパーパスだ。幹部用の会議室を「パーパス・サークル」と呼び、一方の壁にパーパスを大きく張り出し、もう一方の壁に各幹部が持ち寄った、個人的に心を揺さぶられた患者さんの写真を飾った。「誰のために仕事をするのか」を常に思い出すことで強い使命感を持たせたのだ。

人々の生活を変えるほどのイノベーションは、技術だけではなく「人」によって成し遂げられる。そのことを強く認識させてくれる一冊だ。

今回の評者 = 吉川 清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

Moonshot ファイザー 不可能を可能にする9か月間の闘いの内幕

著者 : アルバート・ブーラ
出版 : 光文社
価格 : 1,870 円(税込み)