近年、日本でも人気が出始めている中国料理の「火鍋(ひなべ)」。赤い麻辣(マーラー)スープと白い白湯(パイタン)スープが特徴の鍋料理だ。
中国で1994年に創業した外食チェーン「海底撈(かいていろう)」は同国で圧倒的な人気を博し、東南アジア、欧米などに展開している。日本にも2015年に進出した。時価総額は現在1兆円を超える。日本にはこの規模の外食企業はなく、世界でも有数だ。
本書『海底撈 知られざる中国巨大外食企業の素顔』は、海底撈が成功した理由について創業者の張勇(ジャン・ヨン)氏の考え方や企業文化などから迫っている。著者の山下純氏はパナソニックに在籍し、17年から海底撈と協業で厨房を自動化する事業の立ち上げに参画して2社による合弁企業の初代総経理を務めた。
■徹底した「顧客至上主義」
海底撈は現在、世界で年間2億人以上が利用しているという。人気の理由は中国で「変態級」と評される徹底した接客サービスにあるようだ。
例えば、中国の店舗では待ち時間にフルーツ、ネイル、靴磨きなどのサービスを無料で提供する。テーブルでは、鍋で煮込む麺を専門のスタッフが舞いながら引き延ばす「カンフー麺」なるパフォーマンスも披露する。ホールスタッフは赤ちゃんが泣いていればあやし、眠ってしまった来店客に毛布をかけるなどその場で機転をきかせた行動をとる。徹底したサービスは中国で一人っ子政策が行われた90年代に生まれた世代(九〇后)を中心に支持を集めている。
顧客至上主義の「おもてなし」といえば、かつては日本企業のお家芸だった。しかし、海底撈がこれほど成功していることを考えれば、その考え方はもう古いのかもしれない。中国市場で高い接客サービスが評価されていることは日本企業が中国展開する際のヒントになる。