丸藤葡萄酒甲州シュール・リー 産地からワイン文化発信
日本を代表するブドウとワインの産地、山梨県甲州市勝沼町。JR勝沼ぶどう郷駅から車で10分ほどブドウ畑の中を走ると、築約150年の古民家を改装した丸藤葡萄(ぶどう)酒工業の建物が出迎えてくれる。
創業1890年(明治23年)。創業者の父親はメルシャンの源流となったワイナリー「大日本山梨葡萄酒会社」設立時に、出資者の一人として名を連ねた人物だ。
もともと生活のために始めたワイン造りだったが、現在の大村春夫社長(当時は専務)が1977年にフランス留学から帰国したのを機に、世界に通用するワイン造りを目指すようになった。
留学で学んだ醸造技術を持ち込んだほか、「日本が世界の銘醸地となるため」という考えのもとメルシャンが惜しまず技術を開示してくれた。その技術や製法も積極的に取り入れ、試行錯誤を重ねてきた。なかでも、「シュール・リー」製法は甲州のワイン造りに大きな影響を与えた。
シュール・リーはフランス語で「澱(おり)の上」を意味する。「かつて、発酵が終わった白ワインは、澱のにおいがつかないよう沈んだ澱を早めに取り除くようにと教えられた」と大村社長は打ち明ける。逆にシュール・リーは澱を取り除かずに熟成させ、徐々に分解する澱からうまみを引き出す。
この製法で磨きをかけた辛口の白ワイン「ルバイヤート甲州シュール・リー」は生ガキや刺し身など和食全般に合う丸藤葡萄酒の代表的なワインとなった。
丸藤葡萄酒はワイン文化の浸透にも力を注いできた。88年、ワインの蔵にアーティストらを招いてコンサートを開く「蔵コン」を始めた。87年に東京駅で「エキコン」が開催されたと聞いた大村社長が「蔵からの情報発信」を思いついた。以来、毎年4月に開催し、既に30回以上を数える。
全国から250人ほどを迎え、ブドウ畑を見ながらワインを楽しみ語り合ってもらう。その後、地下のワイン蔵を舞台にジャズやクラシック、シャンソンなどに耳を傾ける。新型コロナウイルスの影響でここ2年は中止した。2022年春の蔵コンは「なんとか開催したい」と意欲をみせる。
蔵コンはワインを介して交流を図り、その年のワインの出来を占う情報収集の場でもある。国産ブドウだけを使い国内で醸造した「日本ワイン」が注目され始めてまだ10年ほど。「ワイン文化を発信するのには役立ったのではないか」と大村社長。「いずれはワイナリーを訪ねることが日常化することを願っている」と語る。
国内の醸造技術はかつてに比べ格段に向上し、大村社長がいま最も力を注ぐのは、いかにワインに適したブドウを栽培するか。2.5ヘクタールある自社のブドウ畑では在来の甲州種だけでなく、欧州系のカベルネ・ソーヴィニヨンやプティ・ヴェルド、シャルドネなども栽培する。「食事と共に楽しんでもらい明日も頑張ろうと思ってもらえるワインを造りたい」と話す。
(甲府支局長 内藤英明)
[日本経済新聞電子版 2021年10月21日付]
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