成長持続へ自分流貫く

――18年に佐々木一郎さんに社長を譲りました。どのような決断があったのですか。

「世代交代はいつかはしなければと思っていました。社長交代の記者会見では、佐々木氏を野球に例えて『コントロールの悪い豪腕投手』と表現しました。経営にはスピードが重要です。変化の早い今の時代では、もたもたしていると競合とのレースから脱落しかねません。エンジニア出身で元気がある佐々木氏のリーダーシップに目を付け、彼なら適任だと考えました」

――リーダーの条件には何が必要ですか。

「つらくても明るく元気に振る舞うことです。リーダーがうつむいて暗い顔をしている会社が伸びていくでしょうか。想定外の事態が起きても、他人には見えないようにする努力が求められます」

「私もしんどかったことは山ほどあります。トップになってからは毎日何個も悩みが生まれます。心配性なのか、休日にも考え込んでしまいます。私は周りからトップダウンで意思決定を行っている印象を持たれがちです。でも会議の前から悩みに悩んで結論を出しているのです」

――リーダーとしてどんなときに達成感がありますか。

「私は誰かを手本にすることもなく、良くも悪くも自分流で、全力で走ってきました。『最高益になってうれしい』という場面も多少はありました。でも経営者というのは、ホームランバッターのタイトルを生涯で1回だけとるよりも、打率3割を毎年続ける方が優れていると私は思います。持続的な成長により、ブラザーの仲間が楽しく幸せに暮らすことが私の喜びです」

(角田康祐)

地元勢の対局に興奮
こいけ・としかず 1955年愛知県生まれ。早大政経卒、ブラザー工業入社。入社3年目に米国に渡り、プリンターの営業などで実績を積む。2000年米国法人社長。05年に帰国し、07年に社長、18年会長。
 趣味は将棋で、二段の腕前だ。直近の竜王戦や王位戦で、同郷で顔見知りの仲である豊島将之氏と、同じ愛知県出身の藤井聡太氏との対局は興奮したという。
 スポーツは「やるのは苦手だが、見るのは大好き」。今年は大谷翔平選手の投打の活躍を何より楽しみにしていた。
お薦めの本
「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」(戸部良一ら著)
 旧日本軍の敗因を端的に指摘した名著です。戦況を把握せず、明確な戦略もなく精神論で戦った失敗の本質は、まさに企業経営にも重なります。

[日本経済新聞夕刊 2021年10月21日付]

「私のリーダー論」の記事一覧はこちら

マネジメント層に必要な4つのスキルを鍛える講座/日経ビジネススクール

会社役員・経営幹部の方を対象とした、企業価値を高める経営の実務に役立つビジネス講座を厳選

>> 講座一覧はこちら