「セカンドライフ」を覚えているだろうか? 2000年代に登場したインターネット上の「仮想現実」である。日本では07年ごろにブームとなったが、数年で急速に衰退。今でも運営されているが、ユーザーは多くないようだ。
セカンドライフでは、3次元(3D)技術で作られた「もう一つの世界」の中で、ユーザーの分身(アバター)が生活できる。土地などの取引でお金を稼ぐこともできる。衰退した理由には諸説あるが、本書『メタバースとは何か』で著者の岡嶋裕史氏は、当時の3D技術が未熟で、「長い時間を過ごしてもいい」とユーザーに思わせられなかったのが敗因と分析している。
フェイスブックの運営会社がメタに社名変更し、開発に本腰を入れ始めたことで、にわかに注目を集めた「メタバース」。その概要を知り、真っ先に思い出したのがセカンドライフだった。岡嶋氏によれば、セカンドライフはメタバースを20年前に先取りしていた。
本書は、メタバースについて、その定義や形態、注目される理由、熱い視線を送る各企業の動向、日本企業の可能性などを網羅的に解説している。著者の岡嶋氏は富士総合研究所勤務、関東学院大学経済学部准教授・情報科学センター所長を経て、現在は中央大学国際情報学部教授を務める。
■ミラーワールドとメタバースの違いとは
今のところメタバースの定義は定まっていない。類似したものにデジタルツイン、ミラーワールドなどがあり、これらをメタバースに含める人もいれば、区別する人もいる。岡嶋氏は「現実とは少し異なる理(ことわり)で作られ、自分にとって都合がいい快適な世界」と定義。現実を模した「疑似現実」のデジタルツインやミラーワールドとは別物としている。
GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)と呼ばれる米IT(情報技術)の巨人たちは、こぞってメタバースに注力しつつあるが、岡嶋氏によると、米メタ(旧フェイスブック)が開発しようとしているメタバースは、同氏の定義するものに近い。一方、グーグル、マイクロソフトなどは、疑似現実の方向をめざしているようだ。
岡嶋氏は、一般にメタバースと称されるものは「もう一つの世界」と疑似現実という2つのタイプがしばらくは両立して発展していくが、ゆっくりと前者にユーザー人口が移動していくだろうと予測している。