Zホールディングス傘下でレシピ動画サービス「クラシル」を展開するdely(デリー、東京・港)は、2022年10月28日にネットスーパー事業「クラシルマート」を終了した。22年7月のサービス開始から、わずか3カ月での撤退となる。最大の要因は「利益率」だ。仕入れ値が下げられない一方、他社との競争から安価に販売したため、低利益率の構造に陥った。投資した費用を回収するのに時間がかかると考え、早期撤退を決めたという。今後は本業である、コンテンツを生かした事業と小売りの支援事業に注力する。

レシピ動画サービス「クラシル」を展開するdely(東京・港)は、2022年10月28日にネットスーパー事業「クラシルマート」を終了した
レシピ動画サービス「クラシル」を展開するdely(東京・港)は、2022年10月28日にネットスーパー事業「クラシルマート」を終了した

 delyが展開していたクラシルマートは、スマートフォン向けアプリから注文を受け付けた後、配達員が配送拠点である店舗から商品を集め、顧客の自宅に商品を配達するダークストア型ネットスーパーだ。2022年7月21日に1号店を東京・五反田にオープン。スーパーマーケット並みの充実した品ぞろえを手ごろな価格で提供し、最低注文金額2000円(税込み)で注文から1時間以内に自宅に届けるサービスをうたっていた。

 ダークストア型ネットスーパーに参入する契機となったのは、21年12月から展開していたスーパーの配送代行サービス「クラシルデリバリー」だ。専用アプリから注文が入ると、配達員が加盟するスーパーの店舗から商品を集め、注文者の自宅へと配送するサービスだった。だが、配送代行にはさまざまな課題があった。まず、店内から商品を集めるピッキング作業だ。配達員は店舗の構造を理解しているわけではない。そのため、広い店内から商品を集める作業に時間がかかって非効率になり、コストが想定を大幅に上回った。

 また、加盟するスーパーの在庫情報を把握できない点も課題になった。注文を受け付けても、配達員が店舗に行ったら品切れしているという事態を引き起こすこともあり、サービスの体験を毀損していたのだ。一方で、注文後に短時間で自宅に商品が届くという体験そのものの満足度は高かったという。

 そこで、ピッキング効率と商品の欠品による体験の毀損という2つの課題を解決すれば、より満足度の高いサービスを展開できるはずだという発想の下、配送代行サービスから自社で配送専用の店舗を展開するダークストア型ネットスーパーへと業態転換を図った。自社の店舗なら構造が把握できているため配達員は効率よく商品を集められ、かつ在庫管理できるため欠品も起こさないという理屈だ。

 delyが展開するメディア事業のクラシルとの連係も、独自の強みとして発揮できると踏んだ。クラシルはアプリのダウンロード件数が3600万を超え、月間利用者数は5500万人に達している。利用者は5万件を超えるクラシルのレシピ動画を検索するなどして、日々の献立を考えるうえで参考にしている。クラシルでレシピの検索から食材の購入まで、料理に必要なプロセスを1つのプラットフォームで完結できるサービスは勝算があると判断した。

 さらにレシピ検索の増減といったクラシルの利用データを基に、需要が高まる食材を予測することで、仕入れや在庫管理の効率化も実現可能だと考えた。こうして配送代行で培った配送知見と既存事業という資産を生かし、ダークストア型ネットスーパーのクラシルマートを開発した。

delyがわずか3カ月で撤退を決めた理由

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