日経プラスワン

冷めると食感が悪くなるのは肉の脂だけではない。ご飯も時間がたつと粘りがなくなり、ポロポロと硬くなる。これは、米の主成分であるデンプンの変化による現象だ。

米に水を加えて加熱すると、デンプン分子の隙間に水が入り込み、膨らんでやわらかい状態になる。これをデンプンの「糊化(こか)」という。

炊きたて熱々のご飯はデンプンがよく糊化して粘り気があるが、冷めるにつれて分子の隙間から水分が出ていって、もとの硬い状態に近づいていく。これをデンプンの「老化」という。老化したデンプンは温め直すことで再び糊化する。家で冷やご飯を食べる場合は電子レンジなどで加熱すれはよいが、外で食べるお弁当はそうもいかない。

デンプンの老化を完全に防ぐのは難しいが、老化することを前提に、多少硬くなっても食べやすくする工夫はできる。米粒の隙間が詰まっていると硬く感じるので、お弁当箱に詰めるときはあまりぎゅうぎゅうと押さず、おにぎりはふっくらと握ろう。

吸水時間も重要だ。米の吸水は最初の30分で急速に進み、そこからさらに1時間半かけて中までしっかり水分が染み込む。温かい状態で食べるなら30分で十分だが、2時間以上かけてじっくり吸水させたほうがふっくらと炊けて冷めてもおいしい。

しかし、朝から2時間も吸水時間をとるのは難しい。前日のうちに洗って一晩吸水させておくのが現実的だ。実際、前日の夜に米を炊飯器に入れ、予約炊飯にしておくという人は多いだろう。ただし、気温の高い夏場は米を長時間水に浸しておくと、雑菌が繁殖して傷みやすいので要注意だ。米を洗って水を加えたら、朝まで冷蔵庫に入れておくと安心だ。朝起きたら炊飯器に入れ、スイッチを押そう。

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香り補い、濃いめの味付け

温度はにおいの感じ方にも影響する。料理のにおいは、食品中のにおいの成分が揮発して鼻の奥にある嗅細胞に届くことで感じられる。成分の揮発は温度が高いほど活発だ。したがって冷めた料理はにおい成分が嗅細胞に届きにくいため、風味が薄く味気なく感じられる。ショウガや大葉、青のり、ゴマなど香りの強い食材で風味を補うと、冷めてもおいしく食べられる。

また、冷えると塩味が強く感じられるが、甘味やうま味は逆に弱まる。においが薄くなることも加味すると味付けはやや濃いめを意識するとよいだろう。

(科学する料理研究家 平松 サリー)

[NIKKEI プラス1 2022年3月19日付]