新潟ワインコーストの個性派ワイン 海、砂、風が育む
新潟市西蒲区角田浜。日本海を望むようにそびえる角田山の麓に5つのワイナリーが集積する場所が通称「新潟ワインコースト」だ。海岸まで約1.5キロメートルの砂地が生み出すワインはいずれも個性派ぞろい。レストランやワインショップもあり、観光スポットとしても人気を呼ぶ。
中心となるワイナリーが1993年オープンのカーブドッチだ。現在、所有するブドウの木は約2万本。750ミリリットル換算で年間9万~10万本を生産する。代表銘柄「サブル」をはじめ提供するワインは約30種類。レストランのほか宿泊施設、日帰り温泉、ワインショップなどを併設する。
「創業者が角田山を見てひらめいたようだ」と今井卓社長。海に近く、まとまった土地があったのもこの地でワイナリーを開く決め手となった。ただ砂地のため、水はけが良い代わりに土地の栄養分は多くない。コンスタントに植えている品種は20。その砂地が生むワインは重くなく、繊細で華やかな香りのする複雑な味わいが身上だ。
特に力を入れるのが20年ほど前に導入したスペイン北西部原産のアルバリーニョという品種。海に近いガリシア地方で栽培され「海のワイン」とも呼ばれる。華やかな香りで酸味がしっかりと残り、この地の気候風土にぴったりと合った。「ようやく収穫量がまとまってきた。この1~2年で白ワインの定番として前面に打ち出したい」と今井社長は力を込める。
ワインコーストの発端は、新潟にワイン造りを根付かせ仲間を増やす狙いでカーブドッチが2005年に始めたワイナリー経営塾だ。ブドウ栽培から仕込み、ワイナリー経営に至るまで働きながら学ぶ仕組みで、これまで10人ほどが学んだ。巣立った醸造家が同じ場所でそれぞれのワイナリーを開き、ワインコーストが形成されていった。
06年にワイナリー「フェルミエ」を立ち上げた本多孝氏もその一人。アルバリーニョを主にピノ・ノワールなどを栽培する。目指すのは海や砂、風など土地本来の個性を表現する優れた品質の「ファインワイン」。農薬や亜硫酸をなるべく使わず「サステナブルなアプローチのワインづくりを心がけている」と話す。
一人1本飲めるワイン
ワイナリーには地元素材などを使ったフレンチレストランを併設。昨年ランチとディナーの間の時間帯にフルコースを提供する「ドランチ」も始めた。本多氏は「ブドウ畑を眺めながら明るい時間にゆったりと食事とワインを楽しんでほしいとの思いを込めた」と話す。
11年オープンの「ドメーヌ ショオ」の小林英雄氏も経営塾で学んだ一人で生命共存科学の博士号を持つ。コンセプトは「一人一本飲めるワイン」。ブドウという素材の力を最大限に生かし、ピンクオレンジや「世界一酸っぱいワイン」なども手掛ける。小林氏は造るワインを「水彩画的な、軽くふわっとした味わい」と表現する。それぞれ造り手の個性が醸し出すバラエティー豊かなワインが根付いている。
(新潟支局長 小田原芳樹)
[日本経済新聞電子版 2022年1月20日付]
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